世界一のジャズプレーヤーを目指し上京した宮本大が、雪祈(ピアノ)、玉田(ドラム)とバンドを組み、途方もない目標に挑戦する。原作はビッグコミック(小学館)で連載中の大ヒット漫画だが、決してメジャーな音楽とは言い難いジャズをアニメ映画にするのはリスキーな選択だ。しかし『BLUE GIANT』はアニメならではの表現でジャズをダイナミックに描き、そこに等身大の青春群像をからませることでエンターテインメントとして見事な仕上がりとなった。
この作品を作り上げた立川譲監督はジャズに関して全くの素人だったという。一体どのような過程を経て本作は完成したのか、立川監督に話を聞いた。
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映画館でジャズの激しさを体感して欲しい
Q:今回、テレビシリーズではなく映画になったのは、原作者の石塚真一先生の強い希望があったそうですね。
立川:原作で主人公・大の高校時代を描いた仙台篇はいいエピソードが多くて、そこで積み重ねた物語が大のキャラクター性になっています。だからこれはテレビシリーズ向きだと、プロデューサーとも話していました。でも原作者の石塚さんは映画にしたいと言う。その理由はテレビだと音にラウドネス※がかかるから。ライブシーンもテレビの音量の範囲でしか聴けないし、視聴環境によってかなり差が出てしまう。でも劇場ならDOLBY ATMOSや7.1チャンネルの迫力のある音で、ジャズの熱さと激しさを体験してもらえると。それを聞いて納得しました。
※テレビ放送の音量・音質を適正なものにするため設けられた規準。
『BLUE GIANT』©2023 映画「BLUE GIANT」製作委員会 ©2013 石塚真一/小学館
Q:主人公はあくまでサックスの大ですが、ピアノの雪祈、ドラマの玉田とそれぞれのドラマもバランスよく配置され、青春群像として楽しめます。
立川:原作を脚本に落とし込む際に思ったのが、主人公の大はまっすぐで強すぎるということ。あまり悩まないし感情が揺れることもないから、主人公としてはちょっと感情移入し辛いなと。その点、玉田と雪祈は壁にぶち当たって心が折れるけど、這い上がってくるのでドラマ性がある。それで、ピアニストの雪祈を主人公に据えてはどうかという話もありました。でも最終的には、大が主人公として2人を引っ張っていく形が一番しっくりきました。ポスターのキービジュアルも大が青く輝いていて、その光に照らされている雪祈と玉田がいる。その印象を映画でも感じてもらえるといいですね。
Q:石塚先生から何か要望はありましたか?
立川:セリフへのリクエストがありました。例えば、大のサックスの先生である由井のインタビューのシーンで「サックスは30分もあれば、ドレミぐらいは吹けるようになる」というセリフがありますが、これは石塚先生の希望です。原作にないセリフでも「ここはこういう風に言ってほしい」という意見もいただきました。
石塚先生は、関係者インタビューのシーンは映画には絶対入れてもらえないと思っていたそうで、そのシーンがあったことをすごく喜んでくれました。映画全体が未来からの回想のような印象になるので、私もやってよかったです。