事実を元に映画を作る責任
Q:監督は7年分の裁判記録を読み込まれたそうですが、リサーチにかかるであろう膨大な時間に対して、不安や焦りはありませんでしたか。
松本:僕、めっちゃ暇だったんです(笑)。当時は特に仕事も無かったので時間だけはありました。内容はとても興味深かったので、資料を読むこと自体苦になりませんでした。とはいえすごい量だったので、どこをピックアップするかが難しかった。7年間の裁判を2時間の映画で描くのは至難の技でした。そんなときに壇先生が、「この裁判に勝者はいない。結局、両者ともに敗者なんだ」と話してくださった。主人公が最後に無罪を勝ち取りカタルシスを感じたい観客はいるかもしれませんが、この映画をそうしてしまうと意味がなくなる。それを壇先生の話からすごく感じました。それを聞いてからは、どこを主に描くかを定めつつ裁判資料を抜き取っていく作業になりましたね。
『Winny』松本優作監督
Q:お話を伺っていると、壇先生をはじめ弁護士の皆さんの協力が相当あったように感じます。先生たちご自身もこの作品に対しての思いがあったのでしょうか。
松本:先生たちの思いは強かったですね。壇先生以外にも、他の弁護士の方や東京大学の教授など、いろんな方のお話を聞きながら、何が真実だったのか多角的に汲み取っていく作業を進めました。ただし、金子さんのお姉さんとお会いするには時間がかかりました。お姉さんは、無罪を勝ち取るまでの7年間は苦しい生活を送られていたはずなので、その気持ちもしっかり汲み取らなければならない。事実を元にした映画で描かれる人たちは、映画が終わっても現実世界で生きている。作る側にとっての責任を考えさせられました。
Q:登場人物は全員実名で出ているのでしょうか。
松本:一部名前を変えた方もいます。個人を特定したいわけではないので、そこに重きを置かないようにしました。金子さんの言葉にもありますが、誰が悪いということではなく、そのときの社会の風潮や、今も残っている刑事裁判の問題など、色んなものが組み合わさってこの事件は起きてしまったのだと思います。