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『リバー、流れないでよ』原案・脚本:上田誠 パズルを組み上げるようにつくる脚本術【Director’s Interview Vol.324】

『リバー、流れないでよ』原案・脚本:上田誠 パズルを組み上げるようにつくる脚本術【Director’s Interview Vol.324】

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アベンジャーズ/エンドゲーム』(19)、MCUの集大成ともいえるこの作品を一体どう着地させるのか?誰もが納得し満足する内容に落とし込めるのか?考えに考え抜いたであろう製作陣が採用した手法は“タイムトラベル”だった。製作陣は気付いてしまったのではないだろうか、時間軸を操るこの手法が、実は最強の映画的ツールなのだと…。その後現在に至るまでのマルチバース流行りはもはや言うまでもない。


そしてここ日本には、時間軸を自在に操る天才が存在する。ヨーロッパ企画代表にして脚本家としても活躍する上田誠その人だ。『サマータイムマシン・ブルース』(05)、「四畳半神話大系」(10)、『ドロステのはてで僕ら』(20)などなど、時間軸を操った傑作をこれまで次々と生み出してきた。その上田氏が最新作『リバー、流れないでよ』で駆使した手法は、“タイムループ”。複雑で緻密だからこそ面白さが蓄積されていく、そして複雑に感じさせない“軽さ”も心地良い。上田誠はいかにして『リバー、流れないでよ』を作り上げたのか? 話を伺った。



『リバー、流れないでよ』あらすじ

舞台は、京都・貴船の老舗料理旅館「ふじや」。静かな冬の貴船。ふじやで働く仲居のミコトは、別館裏の貴船川のほとりに佇んでいたが、やがて仕事へと戻る。だが2分後、なぜか再び先ほどと同じく貴船川を前にしている。「・・・・?」ミコトだけではない、番頭や仲居、料理人、宿泊客たちはみな異変を感じ始めた。ずっと熱くならない熱燗。なくならない〆の雑炊。永遠に出られない風呂場。自分たちが「ループ」しているのだ。しかもちょうど2分間!2分経つと時間が巻き戻り、全員元にいた場所に戻ってしまう。そして、それぞれの“記憶”だけは引き継がれ、連続している。そのループから抜け出したい人、とどまりたい人、それぞれの感情は乱れ始め、それに合わせるように雪が降ったりやんだり、貴船の世界線が少しずつバグを起こす。力を合わせ原因究明に臨む皆を見つつ、ミコトは一人複雑な思いを抱えていた―――。


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衝撃を受けた短編小説「タイムマシンの作り方」



Q:上田さんの手がける作品は“時間”がモチーフになることが多いですが、物語に“時間”を持ち込む醍醐味はなんでしょうか。


上田:僕は脚本を書く上でのパズルが得意なのですが、あの整合性の気持ち良さが好きなんです。それを遺憾無く発揮できるジャンルであることがまず大きい。また、時間を遡ると、物語が本来の時間軸ではあり得ない拡張の仕方をして、過去や未来やパラレルに広がっていく。それによって本来は起こり得ない感情を作れるのが面白い。例えば、死んだはずの配偶者に過去で会うことは本来起こり得ませんが、そういうことが起こせてしまうところも面白いなと。


Q:“時間”を軸にした物語はたくさんありますが、原体験になったようなものはありますか。


上田:広瀬正さんの「タイムマシンのつくり方」という短編集があって、それが衝撃でした。「サマータイムマシン・ブルース」という舞台をやったときに初めて読んだのですが、タイムマシンってこういうことか、と目が覚めるような感覚がありましたね。僕が好きなスタイルは、パラレルワールドが発生するものではなく、同一時間軸の中で矛盾無くパズルが成立するようなもの。広瀬さんはそれを徹底して書かれている方でした。それまで星新一さんらのSF小説や「ドラえもん」などは読んでいましたが、「タイムマシン」というものにここまで感じ入るものは無かったですね。



『リバー、流れないでよ』© ヨーロッパ企画/トリウッド 2023


Q:『ドロステのはてで僕ら』(20)では、藤子・F・不二雄先生のSF短編集の話が出て来ます。その辺の影響もありますか。


上田:そうですね。藤子・F・不二雄先生の作品では、タイムマシンに関するルールが各作品ごとに変わっているにもかかわらず、その作品に適切な仕組みで設計されている。後々そのことがわかって、すごいなと思いました。


Q:今回の『リバー、流れないでよ』でも、藤子・F・不二雄っぽい空気を感じることがありました。


上田:藤子・F・不二雄先生の世界観の良さは、描線やデザイン、画面構成の美しさがあり、出て来る登場人物たち一人一人が愛情を持って描かれていること。いい加減に描かれている人が誰一人いなくて、物語の隅々にまでちゃんとケアが行き届いている。描き殴られている感じが決してなくて、優しく丁寧にものが作られているんです。そこがいいですよね。ものを作るときにパッションだけで突き進むクリエイターの方もいらっしゃいますが、藤子・F・不二雄先生はそうではなく、作るプロセスまでちゃんと製品管理されている感じがするんです。そっちの方が、むしろ愛がある感じがして好きですね。





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