© Emmanuelle Jacobson-Roques
『ダンサー イン Paris』セドリック・クラピッシュ監督 描かれたことのないダンサーのドラマを撮りたかった【Director’s Interview Vol.350】
感覚で撮る部分と計算して構築する部分
Q:過去の名作ミュージカル映画でダンスや歌が占める時間を調査し、その割合を参考に、本作でのダンスシーンを編集で大幅にカットしたそうですね。
クラピッシュ:監督として、私は感覚を優先するタイプかもしれません。とはいえ、そうした感覚的にアプローチする部分と、緻密に計算して構築する部分の両方が備わっている気がします。ですから今回のようにリサーチにも積極的です。もちろんミュージカル映画でも、ダンスや歌のシーンが50%〜80%を占めるとは思っていませんでした。しかし5本、10本と調べていくと、すべてが同じくらい(25%〜35%)だった事実は興味深く、その数値を参考にしたわけです。
Q:監督の「感覚的」という撮り方が感じられる瞬間も多かったです。映画の中盤、海辺の岸壁を散歩するダンサーたちが自然と踊り始めるシーンは美しいですね。
クラピッシュ:あそこは主人公のエリーズにとって恋心も生まれる重要なシークエンスで、ドキュメンタリー映画っぽい演出を試みました。俳優の動きもアドリブを主体にしたので、撮影中のメイキング映像のようになっていませんか? この作品の中で、ホフェッシュ・シェクター(人気振付家で本作には本人役で出演)と共同監督のような感覚だったのが、あのシーンです。撮影日の朝にものすごく強い風が吹いていて、ホフェッシュのカンパニーのダンサーたちが、強風を使ってアドリブのダンスを披露するという流れになりました。その後、風が弱くなったので扇風機を使って強風を作り出したのは、ちょっと作為的ですけど(笑)。
『ダンサー イン Paris』© 2022 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA
Q:エリーズが本番のステージ上で転倒し、ケガをするシーンは衝撃的です。
クラピッシュ:私自身、観客として、ステージ上の女性ダンサーがケガをする瞬間に立ち会ったことがあります。上演は一時ストップし、ステージには救急隊員が駆けつけてきました。ものすごくショッキングで、多くの観客が動揺を隠せない状況でした。その思い出が脳裏をかすめながら演出したわけですが、本当にケガをしているように見せつつ、絶対に危険な動きにならないよう細心の注意を払いました。スタントマンが使うテクニックを主演のマリオン(・バルボー)に習得してもらったのです。
Q:クラシックバレエを極めた主人公がケガに直面し、コンテンポラリーダンスで新たな道を見出す流れからは、ダンス全体へのリスペクトが感じられます。
クラピッシュ:クラシックバレエで始まり、最後はコンテンポラリーダンスで終わるという流れで、使用する音楽も現代的なものとクラシックが切り替わったりします。クラシックとコンテンポラリーを対峙させた目的は、両者の“融合”ですね。どちらが優れているとか、劣っているとかではなく、伝統を生かしながら、前衛的、革新的なものを取り入れることで、芸術が豊かになると信じています。コンテンポラリーのダンサーたちは、クラシック出身が多い。そんな彼らに対する私のリスペクトは、ラストシーンに込められています。