手練れのスタッフがぶっつけで取材
Q:思い立ってから撮影まで3日ですから、大島監督と他の9人のディレクターは打ち合わせをする時間も十分になかったのではないでしょうか?
大島:電話でしか話せなかった方もいましたが、演出プランを書いて送って、「このポイントは守って撮ってください」とお伝えしました。
Q:例えば京都に行ってもらったディレクターには、「京都のどこへ行ってください」とまでは指示していないわけですよね。
大島:言っていないですね。
Q:今回、京都担当のディレクターは、平安神宮で屋台の片づけをしている人に取材しています。とても良いコメントが撮れていますが、あれも当日に見つけるしかないわけですか。
大島:見つけるしかないですね。
Q:ディレクターとしては結構プレッシャーですね。
大島:プレッシャーだと思います(笑)
Q:大島監督の知り合いのスタッフだから手練のドキュメンタリストが多いんですね。
大島:長崎に行ってくれた高澤さんは会社のスタッフの紹介でしたが、それ以外のディレクターは私が過去に仕事をしたことがある人でした。かつて私のアシスタントをやってくれていた人や、私がプロデューサーをつとめた番組のディレクターをしてくれたことがあるとか、そういった関係性でできあがったチームです。
Q:清水で水害の片付けを手伝う高校生と被害に遭った女性のやりとりがとても印象的で、あれがたった1日の取材の中で撮れたというのも驚きです。ディレクターの方は運も含めて相当持っていますね。
大島:込山正徳さんという僕が若い頃から尊敬している先輩で、ザ・ノンフィクション(フジテレビ)で『われら百姓家族』とか、名作をたくさん作っています。
Q:もし自分がディレクターとして参加したら…と想像すると緊張します。撮れ高が悪くて、自分のパートが使われなかったらどうしようと(笑)。
大島:撮影が1日だけだから運不運もあるので、そこは仕方ないです。もちろん込山さんは腕があるから撮れたと思いますが、だからといってその人が行けば、どの場所でも必ず良い素材が撮れるとは限らない。
『国葬の日』(C)「国葬の日」製作委員会
なるべくフラットな意識での撮影
Q:取材のルールは具体的にどんなものだったんですか?
大島:まずは自分の思想信条に関わらず、色んな人の声を拾ってほしいということです。ディレクターのほとんどは国葬に反対だったと思います。その意見を被写体に伝えるか伝えないかはどちらでも良い。ただ自分と同じ考えの人だけを撮るのではなく、フラットな目線で撮って欲しいとお願いしました。あとはその場所で起きている「日常」にもちゃんとカメラを向けてほしいと伝えました。
Q:撮影の仕方も具体的に指示されたのですか?
大島:カメラはフィックスで、ちょっと引き気味の構図がいいとお願いしました。やむを得ずズームやパンするのは仕方ないけど、フィックスの意識をなるべく持ってやりましょうと。
Q:撮影者の感情が入らない定点観測的なイメージで統一したかったのでしょうか?
大島:今回はそこが大切だと思いました。前2作は特にそうですが、私はわりと被写体に介入していくタイプだと思うんです。でも今回はそうではなく、被写体を見つめるような意識。スケッチのような感覚でした。