日本人は分断していたのか?
Q:映画の中で大島監督が「国葬で日本は分断している」という意味のことを何度かおっしゃるのですが、全体を見終えると、日本は分断さえしていなかった、というのが衝撃的で、逆に怖かったです。
大島:本当にそう思いました。私が取材の中で「分断」という言葉を使った相手は、明確に「国葬反対」という意見を持っている落合恵子さんや足立正生さんに対してでした。彼らは自分の言葉を持っていて、行動も起こしている。でも日本全体を見てみると、そういう層がいかに少ないかがわかるし、逆に言うと明確に国葬賛成の人もそこまで多くないと思います。「どちらかと言えば・・・」という意見が大半。それがある種の日本人らしさなんだろうと思います。
『国葬の日』(C)「国葬の日」製作委員会
Q:だから大島さんが映画の中で問いかける、「分断されているんじゃないか」「分断せずに何とかならないのか」という言葉が空回りしているように見えます。
大島:空回りしていましたね(笑)。分断するほどの意志も見えないというのが、今の日本の現状だったという気がしました。
Q:映画のラスト、渋谷のスクランブル交差点の映像に日本の総人口がテロップされます。あのテロップによってスクランブル交差点が「日本人の無関心」を表す荒野のように見えました。
大島:スクランブル交差点はやっぱりラストにしたかった。日本の人口をテロップしたのも大多数の人達はどうだったんだろう?という思いからです。物凄い人が献花に並んだって言うけれど、2万何千人程度。でも日本には1億人以上の人がいるわけです。普通の人はいつもと変わらない日常を生きている。色んな人がいろんな風に生きている象徴として、あの場所をラストにしました。
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監督:大島新
1969年神奈川県生まれ。ドキュメンタリー監督、プロデューサー、95年早稲田大学第一文学部卒業後、フジテレビに入社。「NONFIX」「ザ・ノンフィクション」などドキュメンタリー番組のディレクターを務める。99年にフジテレビを退社し、フリーランスとして活動。「情熱大陸」「課外授業 ようこそ先輩」などを演出。09年に映像製作会社ネツゲンを設立。監督作品に『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』(07/第17回日本映画批評家大賞ドキュメンタリー作品賞受賞)、『園子温という生きもの』(16)。衆議院議員・小川淳也の17年を追った監督3作目の『なぜ君は総理大臣になれないのか』(20)で第94回キネマ旬報文化映画ベスト・テン第1位などを受賞。21年12月、小川や自民党・平井卓也らが出馬した第49回衆議院選を与野党両陣営の視点から描いた『香川1区』を発表。主なプロデュース作品に『カレーライスを一から作る』(16/前田亜紀監督)、『ぼけますから、よろしくお願いします。』(18/信友直子監督)、『私のはなし 部落のはなし』(22/満若勇咲監督)、『劇場版 センキョナンデス』(23/ダースレイダー、プチ鹿島監督)など。
取材・文:稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)
『国葬の日』
9月16日(土)よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
配給:東風
(C)「国葬の日」製作委員会