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『ほかげ』塚本晋也監督 現代を覆う“そこの抜けた理不尽な恐ろしさ”【Director’s Interview Vol.374】

『ほかげ』塚本晋也監督 現代を覆う“そこの抜けた理不尽な恐ろしさ”【Director’s Interview Vol.374】

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趣里、森山未來、キャスティングへの思い



Q:物語の前半はほぼ居酒屋の中だけ、後半は外に出てロードムービーのような流れになりますが、この大胆な二部構成はどのように作られたのでしょうか。


塚本:最初に夢想していたときは、ヤクザやテキ屋、愚連隊や体を売っていたパンパンと呼ばれる女性、戦争孤児など、いろんな人が闇市で暗躍し、渦巻いている世界を描ければと思っていました。ただ、そうなると規模が大きすぎるし、かつて観た映画のような感じもある。まぁどうせそれが出来ないんだったらと、例えば居酒屋をやっていた女の人がいて、その人が家族を失くして一人で静かに暮らしていたらどんな状態なんだろう?と。そしてそこに戦争孤児や復員兵が絡んでくる。その様子に耳を澄ますところから始めてみました。それをまず前半に敷いて、後半はまたちょっと違う展開にして一気に外に飛び出していこうと。そうやってだんだんと構造が浮かび上がってきた感じです。


Q:居酒屋がとても狭く閉塞感があったので、後半は一気に広がった感じもしました。


塚本:そうですね。特に前半は、趣里さんと子役の塚尾くん、復員兵の河野くんたちが緊迫感のある素晴らしい演技で持たせてくれたと思います。



『ほかげ』© 2023 SHINYA TSUKAMOTO / KAIJYU THEATER


Q:趣里さんのキャスティングにはどのような思いがあったのでしょうか。


塚本:趣里さんは映画やテレビに出ているのを見て「すごい俳優さんだな」と思っていました。見るたびに完全に役になりきっていて、本人もそういう人なのかなと思うくらいに役が憑依している。普段の趣里さんがどういう人なのか全く想像がつかず、全身が鋭敏なアンテナで出来ているような印象もありました。そのアンテナを自分の映画にも使って貰いたいなと。


実際にお会いすると、普段の趣里さんは本当に普通な感じですごく小さいんです。今回の役は母性的なことが必要とされるものの、もともと少女だった人がお母さんという立場になるので、「少女性でお願いします」と伝えました。「少女性」と言ってしまうと、俳優さんによっては声色まで少女のようにする可能性もあるわけです。でも趣里さんは、見かけは少女でも声の出し方や演技の仕方で母性的なものを膨らませてきた。そうやって憑依していただいたので、非常にありがたかったです。


Q:森山さんのキャスティングについてもお聞かせください。


塚本:森山さんは、全身でお芝居される雰囲気が非常に素晴らしいなと。本人はダンスもされていますし、演劇も映画もあらゆる形で表現されている。その肉体性に素晴らしさを感じていたので、いつかは出てもらいたいと思っていました。次は何の役にしても出てもらおうと思っていたので、後半で大きな役になってくるテキ屋役をお願いすることにしました。





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