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『ほかげ』塚本晋也監督 現代を覆う“そこの抜けた理不尽な恐ろしさ”【Director’s Interview Vol.374】

『ほかげ』塚本晋也監督 現代を覆う“そこの抜けた理不尽な恐ろしさ”【Director’s Interview Vol.374】

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オーディションで選ばれた素晴らしい役者たち



Q:河野さんは500人の中からオーデションで選ばれたそうですね。


塚本:500人までは数えていましたが、途中で疲れて数えるのをやめちゃったくらい、大きな段ボール箱いっぱいに応募が来ました。以前は多めにオーディションしていましたが、無駄足を運ばせるのも悪いので、かなり可能性のある人だけを選ばせてもらいオーディションしました。そこで素晴らしい方が3人ほどいたのですが、中でも河野さんは自然にお芝居をしていて、そのお芝居に嘘っぽい感じが無かった。自分で納得した上で一つ一つ芝居をしている感じがあったので、河野さんにお願いしたいなと。


Q:そのときはまだ、河野さんが監督してPFFグランプリを獲った『J005311』(22)は世に出ていなかった頃でしょうか。


塚本:世に出ていたのかどうかは分かりませんが、少なくとも僕は、河野さんが監督をされているのは全然知りませんでした。PFFでグランプリを獲ったことは、本人からではなくPFFディレクターの荒木さんから電話で聞きびっくりした記憶があります。



『ほかげ』© 2023 SHINYA TSUKAMOTO / KAIJYU THEATER


Q:『J005311』で河野さんに取材した際、本人は俳優を辞めようと思っていたと言っていましたが、現場ではどのような感じでしたか。


塚本:そんな話は全然なかったですね。オーディションの時もしっかりと積極的にやってくれましたし、頼んだ後では『野火』の飢餓状態になるシーンが念頭にあったのか、すごく減量して来るなど、相当な気構えがありました。今よりもっとガリガリで痩せ過ぎていて、リハーサルではフラフラしていました。(あまりにフラフラだと)子供を投げたりするシーンもあって危ないので、そこまで痩せなくていいですと伝え、映画に出ているぐらいまで戻った感じでしたね。


Q:子役の塚尾くんも素晴らしいですが、現場の演出はどのように行われたのでしょうか。当時は小学1年生ぐらいですか。


塚本:そうですね。今2年生ですから、撮影していた当時は1年生ですね。戦争直後の子供の役なので、痩せて飢餓状態になっている必要がある。そういう色んな条件がある中でも、彼はオーディションの時からすごくしっかりしていました。普通小学校1年生といったら、ぽやっとしている子が多いのですが、彼は「監督、一つ質問があります。①このシーンをやるに当たって、こういう感情でやったら良いんでしょうか? ②あるいはこういう風にやったら良いんでしょうか?」と言ってくるんです。自分も正確に答えられるかドギマギしながら「じゃあ今回は①でやってみてくれる?②の要素もちょっと入れてみようか」みたいな会話が出来ていました。大事な役として現場に立つという自覚が本人にはっきりあったので、塚尾くんにお願いしました。



『ほかげ』© 2023 SHINYA TSUKAMOTO / KAIJYU THEATER


Q:大人に張り倒されたりと、結構ハードなシーンも出てきます。


塚本:現場で救われたのは、本人がすごく明るいことですね。現場では絶えず明るくしてくれていて、飛び込むシーンなどでも、スタントマンの段取りのもと、テストで何回も楽しそうに飛び込んでくれました。その明るさに助けられました。自分が小学校1年生だったら、訳がわからずボーッとしていると思うんですけどね。あれだけはっきりしていると、びっくりしますね。





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