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『ほかげ』塚本晋也監督 現代を覆う“そこの抜けた理不尽な恐ろしさ”【Director’s Interview Vol.374】

『ほかげ』塚本晋也監督 現代を覆う“そこの抜けた理不尽な恐ろしさ”【Director’s Interview Vol.374】

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カメラテスト、編集ソフト選定、美術の“汚し作業”



Q:今回は使用するカメラのテストを何度も行ったそうですが、普段も機材テストは入念に行われるのでしょうか。


塚本:入念というほどではありませんが、身の丈に合ったリーズナブルなもので、映画館のスクリーンでも品質が落ちず操作性がいいカメラを探しました。今回は本当に小さなスケールでやりたかったので、それこそiPhoneから実験を始めました。iPhone自体は良かったのですが、今回は暗いシーンが多いのでちょっと暗部が厳しかったですね。それで少しずつ大きいカメラを試していって、SONYのαシリーズに行き着きました。あえて4KではなくフルHDで撮って、でっかいスクリーンで映してみたらちょうど良かった。4Kだと綺麗すぎてドキュメンタリー的な雰囲気になってしまうんです。フルHDでも粒子が出ることもなく、ちょうど良い感じでした。


Q:居酒屋では夜のシーンが多いですが、ライティングは難しかったですか。


塚本:今回のライティングは結構難しかったかもしれません。暗いのが得意なカメラだったので、ちょっと暗くしすぎてしまい最初は映ってない箇所もありました(笑)。でも何度か撮り直すと、かなり暗い中でも面白い感じに撮ることができました。怪我の功名でしたね。



『ほかげ』© 2023 SHINYA TSUKAMOTO / KAIJYU THEATER


Q:居酒屋の窓から入ってくる外光は本物ですか?


塚本:昼のシーンの外光は主に本物です。ただ20時には完全に撤収して子供を帰さなければいけないので、昼のシーンを撮る日と、暗幕をセッティングして一日中夜みたいにして撮る日で分けていました。


Q:最近は民生機の機能が格段に上がってきていますよね。


塚本:本当にありがたいです(笑)。僕は今、YouTubeをやっている方に色々教えてもらっているんです。アマチュアのような作り方をしている者にとっては良い世の中だなと。とても助かっています。


Q:今回は編集ソフトも新しいものにトライしたとか。


塚本:これまではFinal Cut Proをずっと使っていたのですが、ついに互換性が無くなって使えなくなってしまった。泣く泣くやめることになったんです。皆さんにはpremiereを勧められましたが、編集では2~3年に一度くらいしか使わないので、月々の利用料が結構かかってしまう。最終的にはDaVinci Resolveを覚えて編集しました。


Q:空襲を焼け延びた居酒屋、闇市、後半に出てくる家屋など、まさに戦後の雰囲気が再現されていますが、美術は大変だったのではないでしょうか。


塚本:昔『HAZE(ヘイズ)』(06)というコンクリートの中で動けない人の映画を作ったのですが、本当にそれぐらい小さな居酒屋を作りました。窓の外は白ホリでいいやと思っていたのですが、実際に始めると結局外の廃墟までどんどん作ってしまいましたね。


野火』の時にお世話になった建設会社の方に、「また都内で倉庫を借りるので、小さなセットを作ってくれませんか?」と頼んだら、「深谷の方に今まで作った美術の建具があって、そこには戦後の色んな小物もあるから、こっちでやらないか」と言ってくださったんです。それで撮影拠点を深谷の方に移し、建具のすぐそばにある場所にセットを作りました。そこには戦時中の教科書などの小物も色々あって、それをそのまま撮影に使わせてもらいました。


野火』の時から美術をやってくれた若いクリエイターと一緒に装飾を施していったのですが、細かい汚しなどは自分たちでやりました。自分も含めて片手の指で収まるくらいの少ないスタッフで、毎日毎日、瓦礫を汚したり、壁を塗ったりしていました。汚しはどうしてもやらないとダメなんです。『野火』の時も兵隊さんの服をこすって炙ったりして、汚していきましたからね。





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