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『ほかげ』塚本晋也監督 現代を覆う“そこの抜けた理不尽な恐ろしさ”【Director’s Interview Vol.374】

『ほかげ』塚本晋也監督 現代を覆う“そこの抜けた理不尽な恐ろしさ”【Director’s Interview Vol.374】

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スコセッシと同じで嬉しかった



Q:30年以上映画監督を続けて来られましたが、ご自身の中で変化のようなものは感じますか?

 

塚本:テーマみたいなものは少しずつ変わっているかもしれませんが、映画を作ること自体やモチベーションは8mm映画を作っていた時とあまり変わっていないかもしれません。飽きないように、一作ごとに自分なりの遊び道具を見つけてやっている感じです。


Q:影響を受けた映画や監督を教えてください。


塚本:ご存命の方では、僕も作品に出演させていただいたマーティン・スコセッシ監督ですね。高校か大学のときに『タクシー・ドライバー』(76)を観てから(ファンが)始まったのですが、いつも途切れず映画を作っていて、その都度問題作を作っているのがすごい。全員が手を叩くような映画ではなく、ある人は嫌悪したり首を傾げたりするようなテーマを堂々とやり、いつも元気に作ってらっしゃるのはすごいなぁと。憧れますよね。


若い時は黒澤明監督が一番好きでした。活劇性やテーマの濃い感じなどが好きで、黒澤監督の撮影メイキングがテレビで放映されると、不思議に面白くて固唾を飲んで観ちゃってましたね。


Q:マーティン・スコセッシ監督の『沈黙 -サイレンス-』(16)に出演された際、現場でスコセッシの演出を間近で見ていかがでしたか。


塚本:スコセッシ監督を見ていると、「(自分も)今までのままでいいんだ」と思っちゃうところがありましたね。スコセッシ監督は役者にすごい自由を与えて、ほぼ何も言わないんです。役者が何かプランを持ってくると、とても面白がって「どんどんやって!」と言って、何をやっても「エクセレント!」って言うんです。そうすると役者が喜ぶ。そのやり方は自分もややそういう感じなので似ているなと。ただそうなると役者で映画が変わって来ちゃうので、キャスティングが大事なんだろうなと思いますね。ロバート・デニーロみたいな方を選んで、ロバート・デニーロが自発的にやることを面白がって撮り、編集で一番大事なところを選んでいく。そういう方法を取っているんだろうなと。


ただスコセッシ監督の撮るテイクは半端ないんです。僕もテイクは多かったりしますが、それでも重い演技の時には、「いつもは何回も撮るけど、これは一発でいきますから」となるべくプレッシャーかけずに伝え、気合いを入れて撮ったりするのですが、スコセッシ監督はそういう重大なシーンでも延々撮る。俳優さんは結構疲弊しますね。船に乗ったアダム・ドライバーとアンドリュー・ガーフィールドが別れるという大規模なシーンも、100回ぐらい撮ったんじゃないですかね。カットごとにいちいち船を戻すのが大変だから、ロープで導線が作られていて、まるでミニチュアのオモチャみたいに船が行き来できるようになっていました。そういうところの規模のデカさは感じましたね。


そんな中でも益々「これでいいんだ」と思ったのは、現場の規模はすごくデカいのですが、その真ん中で起こっていることは全然特別じゃなく、いつも自分たちがやっていることと同じだったこと。「ああ!ちょっと雲が出てきちゃった、晴れと霧のどっちのカットで繋げていく?」みたいなことを現場で言い合ったりして、「あぁ、自分たちと一緒だなぁ」と。すごく近い感じもして何となく嬉しかったですね。



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監督/脚本/撮影/編集:塚本晋也

1960年1⽉1⽇、東京・渋⾕⽣まれ。14歳で初めて8ミリカメラを⼿にする。87年『電柱⼩僧の冒険』でPFFグランプリ受賞。89年『鉄男』で劇場映画デビューと同時に、ローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ受賞。以降、国際映画祭の常連となり、その作品は世界の各地で配給される。世界三⼤映画祭のヴェネチア国際映画祭との縁が深く、『六⽉の蛇』(02)はコントロコレンテ(のちのオリゾンティ部⾨)で審査員特別⼤賞、『KOTOKO』(11)はオリゾンティ部⾨で最⾼賞のオリゾンティ賞を受賞。『鉄男 THE BULLET MAN』(09)、『野⽕』(14)、『斬、』(18)でコンペティション部⾨出品。本作『ほかげ』はオリゾンティ・コンペティション部⾨へ出品された。また、北野武監督作「HANA-BI」がグランプリを受賞した97年にメインコンペティション部⾨、05年はオリゾンティ部⾨、19年にはメインコンペティション部⾨と3度にわたって審査員を務め、2013年の第70回⼤会時には記念特別プログラム「Venezia70ーFuture Reloaded」の為に短編『捨てられた怪獣』を制作している。製作、監督、脚本、撮影、照明、美術、編集などすべてに関与して作りあげる作品は国内、海外で数多くの賞を受賞、⻑年に渡り⾃主制作でオリジナリティ溢れる作品を発表し続ける功績を認められ、2019年にはドイツで開催される世界最⼤の⽇本映画祭「第19回ニッポン・コネクション」にてニッポン名誉賞、ニューヨークで開催される北⽶最⼤の⽇本映画祭「第13回Japan Cuts〜ジャパン・カッツ!」にて、第8回CUT AVOVE(カット・アバブ)賞を受賞した。その他監督作に『ヒルコ 妖怪ハンター』(90)、『東京フィスト』(95)、『バレット・バレエ』(98)、『双⽣児』(99)、『ヴィタール』(04)、『悪夢探偵』(06)など。俳優としても監督作のほとんどに出演するほか、他監督の作品にも多く出演。2002 年には『とらばいゆ』(01/⼤⾕健太郎監督)、『クロエ』(01/利重剛監督)、『溺れる⼈』(00/⼀尾直樹監督)、『殺し屋1』(01/三池崇史監督)で毎⽇映画コンクール男優助演賞を受賞。同コンクールでは 15 年に『野⽕』で監督賞・男優主演賞を W 受賞、19 年に『斬、』で男優助演賞を受賞している。その他出演作に『シン・ゴジラ』(16/庵野秀明監督)、『沈黙ーサイレンスー』(16/マーティン・スコセッシ監督)、『シン・仮⾯ライダー』(23/庵野秀明監督)など。NHK 連続テレビ⼩説『ゲゲゲの⼥房』(10)、『カーネーション』(11−12)、『半分、⻘い』(18)、『おかえりモネ』(21)、NHK ⼤河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』(19)などドラマにも多数出演。他、ナレーターとしての仕事も多い。



取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成




『ほかげ』

11月25日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開

配給:新日本映画社

© 2023 SHINYA TSUKAMOTO / KAIJYU THEATER

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