日本にやってきた“惑星難民X”とは誰なのか? 熊澤尚人監督が手掛けた『隣人X -疑惑の彼女-』は、SFサスペンスのエンターテインメントを軸に、差別や過熱報道、同調圧力など、コロナ禍を経た日本が抱える問題を炙り出していく。日本では成立させるのが難しいであろう題材を元に、熊澤監督はいかにしてこの映画を作り上げたのか? サスペンスとテーマのバランス、17年ぶりにタッグを組んだ上野樹里との仕事など、本作の制作過程を中心に話を伺った。
『隣人X -疑惑の彼女-』あらすじ
ある日、日本は故郷を追われた惑星難民Xの受け入れを発表した。人間の姿をそっくりコピーして日常に紛れ込んだXがどこで暮らしているのか、誰も知らない。Xは誰なのか?彼らの目的は何なのか?人々は言葉にならない不安や恐怖を抱き、隣にいるかもしれないXを見つけ出そうと躍起になっている。週刊誌記者の笹(林遣都)は、スクープのため正体を隠してX疑惑のある良子(上野樹里)へ近づく。ふたりは少しずつ距離を縮めていき、やがて笹の中に本当の恋心が芽生える。しかし、良子がXかもしれないという疑いを払拭できずにいた。良子への想いと本音を打ち明けられない罪悪感、記者としての矜持に引き裂かれる笹が最後に見つけた真実とは。嘘と謎だらけのふたりの関係は予想外の展開へ…!
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コロナ禍の影響は大きかった
Q:他の惑星から来た難民が出てくる物語ですが、現代社会、コロナ禍の日本が色濃く反映されていました。このジャンルを手がけてみていかがでしたか?
熊澤:こういう世界観の映画は日本では少ないですよね。そこの難しさは最初に感じました。観客の気持ちが見えにくく心配でしたが、一方でテーマがとても魅力的でしっかりしていた。テーマがその心配を凌駕しちゃうんじゃないかなと。そこに懸けてみました。
『隣人X -疑惑の彼女-』©2023 映画「隣人X 疑惑の彼女」製作委員会 ©パリュスあや子/講談社
Q:隣人への疑い、加熱報道、差別など、タイムリーな問題がうまくハマっていますが、日頃からこういった問題に対する意識はお持ちでしたか?
熊澤:そうですね。特にコロナ禍は大きかったですね。当時のマスコミ報道はすごいものがありました。皆忘れかけていますが、帰省すること自体が問題になり、そんなことですらテレビで報道されていましたよね。未知な病気だったので、世界中の人が恐怖し疑心暗鬼になっていましたが、その中で人間の残念な部分が出てきてしまった。特に日本人は周りの人間と同調しがちで、その悪い部分に思い切り傾いてしまった。他人との距離感や接し方が、コロナになってからより難しくなったと思います。
コロナ以後のそうした問題を映画から感じてもらい、自分ならどうするか考えてもらいたい。惑星難民X探しから映画は始まりますが、“Xが誰か?”というエンターテインメント以上の持ち帰り感があればいい。そう思ってこの映画を作りました。