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『プリシラ』ソフィア・コッポラ監督 ビジュアルで物語を伝える志向性を貫いて【Director’s Interview Vol.398】
無意識に出てしまう「自分らしさ」
Q:実際にプリシラは映画についてどんな感想を話していましたか?
コッポラ:全体をざっとつないだ初期のカットを観てもらった時が一番緊張しました。プリシラが「これは私の人生」と言ってくれて安心したのを覚えています。ケイリーの演技のおかげでもありますね。
Q:最初にプリシラ役のケイリー・スピーニーをキャスティングし、その後にエルヴィス役のジェイコブ・エロルディを選んだそうですね。
コッポラ:ケイリーとはコーヒーを飲みながら、時間をかけてプリシラの人生について説明しました。おたがいの意図を理解し合って、彼女がプリシラ役に決まりました。ジェイク(ジェイコブ・エロルディ)とは撮影現場で会っていたので役をオファーしました。心配だったのは、撮影までに2人を一緒にスクリーンテストできなかったこと。どんな相性か確信が持てなかったのですが、彼らは事前に連絡を取り合ってくれたようで、撮影開始時にはすっかり打ち解けていました。実際に撮りながら、私が予想した以上に2人の間からエネルギーが生まれるのを感じたのです。ジェイクには根っからのカリスマ性が備わっている上、誰に対しても安心感を抱かせる資質があるようです。
『プリシラ』©The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023
Q:映画のオープニングで、ふかふかのカーペットに素足が沈み込む映像が出てきますが、いかにもソフィア・コッポラ作品らしいと感じました。
コッポラ:そのように言いたい気持ちはよくわかりますが、あの映像が私らしいかどうか、自分で判断することはできません。ときどき無意識に撮りながら「ああ、これは私の映画の常套手段だ」と感じることはあります。ベッドルームで女の子が横たわっていたりするシーンですね。でも意識的かどうかは、あまり考えないようにはしています。
Q:ただあなたの映画の独特のビジュアルセンスには、多くの人が夢中になっているのも事実です。
コッポラ:たしかに映画製作で私が最もテンションが上がるのは美術の作業です。今回は、あの時代の航空券を再現する作業や、雑誌の表紙用にジェイクを撮影する際の衣装やメイク、出産前で苦しんでいるプリシラが病院へ行くために付けるつけまつげなど、とにかくディテールへこだわることを楽しみました。ビジュアルでストーリーを語る私の志向性が、1960年代という時代、およびそこに生きる女性を表現するうえで役立ったのでしょう。