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『プリシラ』ソフィア・コッポラ監督  ビジュアルで物語を伝える志向性を貫いて【Director’s Interview Vol.398】

©The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023

『プリシラ』ソフィア・コッポラ監督  ビジュアルで物語を伝える志向性を貫いて【Director’s Interview Vol.398】

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巨匠フランシス・フォード・コッポラを父に持ち、20代で監督デビューした『ヴァージン・スーサイズ』(99)以来、アカデミー賞脚本賞を受賞した『ロスト・イン・トランスレーション』(03)、そして『マリー・アントワネット』(06)など独自のセンスで作品を撮り続けてきたソフィア・コッポラ。『SOMEWHERE』(10)ではベネチア国際映画祭金獅子賞、『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(17)ではカンヌ国際映画祭監督賞に輝くなど、もはや父と肩を並べる映画作家になったともいえる。


その新作は、エルヴィス・プレスリーと恋におち、妻となったプリシラの物語。彼女の回顧録「私のエルヴィス」を基に、世界的なスーパースターとの関係、一人の少女の成長をソフィア・コッポラらしいビジュアルセンスとともに描いていく。プリシラ役のケイリー・スピーニーは本作でベネチア国際映画祭の最優秀女優賞を受賞。北米では前作『オン・ザ・ロック』(20)に続きA24が配給を手がけるなど、映画ファンの注目も集めるこの『プリシラ』にどう取り組んだのか。ソフィア・コッポラにインタビューした。



『プリシラ』あらすじ

14歳のプリシラは、世界が憧れるスーパースター(エルヴィス)と出会い、恋に落ちる。彼の特別になるという夢のような現実…。やがて彼女は両親の反対を押し切って、大邸宅で一緒に暮らし始める。魅惑的な別世界に足を踏み入れたプリシラにとって、彼の色に染まり、そばにいることが彼女のすべてだったが…。


Index


本人から聞いたエルヴィスとの映画館のエピソード



Q:『マリー・アントワネット』や『ブリングリング』(13)と同じく、『プリシラ』には原作が存在しています。今回の脚本化はどんなチャレンジでしたか?


コッポラ:原作を翻案するというプロセスは、まず本を選ぶ段階から気持ちが上がります。ですからチャレンジというより楽しい作業ですね。今回はプリシラの回顧録の中から私の心に最も深く残ったパートをセレクトしていきました。それらを一つのストーリーとして組み立てると、流れもできあがっていきます。その結果、プリシラがグレースランド(エルヴィス・プレスリーの邸宅)に迎え入れられ、そこを離れるまでの期間を作品の中心にしたのです。


Q:そもそも原作のどんな部分に惹かれたのでしょう。


コッポラ:原作を読みながら、思いのほか共感している私がいました。これは多くの女の子が経験する物語なんです。ファーストキスをして、人生で大切な相手を見つける。そして母親になる。私が驚いたのは、プリシラが高校生であまりに多くのことを経験した事実です。エルヴィスとの生活がどのようなものだったのかは想像の域を超えており、私が独自の判断を下すのは難しいとも思いました。



『プリシラ』©The Apartment S.r.l All Rights Reserved 2023


Q:その意味で、プリシラ本人に脚本の段階から協力してもらったのですね。原作には書かれていないエピソードも入っているのですか?


コッポラ:はい。プリシラが私の前で人生を語ってくれて安心しました。私との対話で、彼女自身もあの当時の思い出が鮮やかに蘇ったようです。そこで原作に書かれていないエピソードも話に出てきました。たとえばプリシラとエルヴィスの映画館でのデート。『悪魔をやっつけろ』(53)を観ながら、エルヴィスはハンフリー・ボガートのセリフを映像に合わせて復唱します。暗記するほど観ていたんですね。その直後の車の中のシーンで、エルヴィスは『波止場』(54)のマーロン・ブランドを絶賛し、彼やジェームズ・ディーンの演技に憧れていることをプリシラに力説します。ミュージシャンとしては最高の人気を得ていたエルヴィスが、俳優業ではキャリアに不満をもち、屈折感も抱えており、そうした感情はプリシラから直に聞いたことで脚本に入れ込むことができました。いずれにしても私は彼女のストーリーを正確に伝える責任を感じたのです。


Q:実在の人物ということでは、マリー・アントワネットとも共通しています。


コッポラ:映画という短い時間で特定の誰かを表現すること。そして主人公の視点など、2作には共通点があります。一方で私が描いた主人公が生きているかどうかは大きな違いで、今回は不明なところはプリシラに質問して解決しつつ、完成作を当の本人が観ることを覚悟して、作品のバランスを慎重に考えました。それは『マリー・アントワネット』で考えなかったことです。




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