2024年にはNetflix映画『パレード』に続き、日台合作映画『青春18×2 君へと続く道』がアジア各地でのヒットを記録し台湾のアカデミー賞・金馬奨に4部門ノミネートを果たしたほか、Netflixジャパン初の時代劇となる「イクサガミ」や木村大作との新作映画の製作発表が行われるなど、ノンストップで動き続けた藤井道人監督。彼が盟友・横浜流星と4年越しで実現させた映画『正体』が、11月29日に劇場公開を迎える。
染井為人の同名小説を映画化した本作は、日本各地を転々とする脱獄囚・鏑木(横浜流星)と彼に出会った人々(吉岡里帆・森本慎太郎・山田杏奈)、彼を追う刑事・又貫(山田孝之)を巡るヒューマンサスペンス。藤井作品史上最大級にエンタメ性が強化された一作といってもいい『正体』は、いかにして作り上げられたのか。影響を受けた作品や変わったこと・変わらないものの話を交えつつ、その創意に迫る。
『正体』のあらすじ
日本中を震撼させた凶悪な殺人事件の容疑者として逮捕され、死刑判決を受けた鏑木(横浜流星)が脱走した。潜伏し逃走を続ける鏑木と日本各地で出会った沙耶香(吉岡里帆)、和也(森本慎太郎)、舞(山田杏奈)そして彼を追う刑事・又貫(山田孝之)。又貫は沙耶香らを取り調べるが、それぞれ出会った鏑木はまったく別人のような姿だった。間一髪の逃走を繰り返す343日間。彼の正体とは?そして顔を変えながら日本を縦断する鏑木の【真の目的】とはー。
Index
- 『正体』に影響を与えた作品群とは
- 求められる場が変わってきたという実感
- 出来事に対して誠実に描いた先に、本物感が宿る
- 「時間の経過」を重視し、撮影を夏・冬の2部制で実施
- 自分たちは結果を出さなければ次はない
- 2027年が自分の活動の一区切りになる
『正体』に影響を与えた作品群とは
Q:元々、4年前にamazarashiの楽曲にインスパイアされたオリジナル作品を横浜流星さん主演で開発されていたと伺いました。その中で『正体』の原作と出合い、こちらにスライドしていったと。
藤井:流星と2人でオリジナルを書き始めたころは、amazarashiのルーツである青森を舞台にした逃避行を考えていました。レッテルを張られた二人がユートピアを探すような話でしたが、オリジナルだからなかなかうまくいかないこともありもがいていたときに、TBSの水木雄太プロデューサーからこの企画をいただきました。自分たちがやりたかったことと原作がマッチしていて、だったら『正体』をやります、と決めました。
Q:その際に一つリファレンスとしてあったのが、アンドリュー・ガーフィールド主演の『BOY A』(07)だったそうですね。
藤井:自分の中で鏑木を思い浮かべたときに、『BOY A』のアンドリュー・ガーフィールドの芝居が凄かったなと思い出し、何かしら参考になるのではないかと流星に勧めました。僕が『わたしを離さないで』(10)など、元々アンドリュー・ガーフィールドが好きなことも関係しているように思います。ただ、『BOY A』は刑期を終えた後にどう生きるか、という物語なので、『正体』とはまた違っているのですが。
『正体』(C)2024 映画「正体」製作委員会
Q:原作者の染井為人さんは「映画は、自分が描かなかった警察側の視点を入れていた」と評価されていました。
藤井:自分が筆をもらってから強くなっていった部分であり、最も変わった部分はそこかと思います。元々は又貫の背景まで細かく描いていました。僕は小説をなぞるだけなら小説を読めばいいと思ってしまうタイプで、映画として観るときに追う側の葛藤もしっかり入れていきたいと考えたのです。もし、鏑木が出会った人たちの群像劇だけにフォーカスするなら連続ドラマの方が向いているでしょうし、映画として1本軸で描くのなら、又貫というキャラクターをしっかり立てたいと。幸いなことに原作ではそこまで描かれていなかったため、自分の知的好奇心としてもそこに目が行きました。
Q:水木Pは追う者/追われる者を描いた作品として、『レヴェナント:蘇えりし者』(15)を藤井監督が挙げていた、と仰っていました。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは藤井監督がお好きな監督でもありますね。
藤井:滅茶苦茶『レヴェナント:蘇えりし者』を参考にしたというわけではありませんが、執着や寒さ、痛みなどを描くのがイニャリトゥ監督は抜群にうまいため、いくつか挙げたリファレンスの中に入れていたように思います。