話が噛み合っていると思ったことは一度もない
Q:大島さんとタッグを組んでいる前田プロデューサー※から見てどう思いました? ※前田亜紀:大島新と組んで数々の作品を発表。自らも監督として『NO 選挙,NO LIFE』(23)などを発表。
前田: 改めて話を聞いて思うのは、テレビでドキュメンタリーとしてやった被写体をもう一回映画として撮ろうとした時に、前と同じことはできないという思いもあって、「虚構」を持ち込んだのかなと思いました。でもそれが本当に起きるようにギリギリのところを攻めたり、被写体の背中を押してシーンを作っちゃう人もいる。そこには行かないわけですね。
大島:そこにはいかない。その手法は逆に被写体に負担をかけてしまう。
前田:でも同じといえば、同じ…。
大島:同じだけど被写体が全員俳優なので。みんな役者だからシナリオがあった方がいいだろうと。あとは僕がちょっと出たかったというのもある(笑)。
前田:虚構のシーンをやってもらうという企画自体はいつの段階から唐さんにお願いしていたんですか。
大島:それはもう稽古の頃から。
前田:じゃあ、もしリアルで同じようなものが撮れてしまうと「虚構のシーンは必要ないね」となることもありえたわけですか?
大島:可能性としてはあるかなとは思ったけど…。でもあそこまで派手なシーンが現実に起こることはないよなと。
『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』(C)いまじん 蒼玄社 2007
Q:そういう意味で本作を見ると、悪しきものとされがちなドキュメンタリーの予定調和を逆算で取り込む面白さがあるなと思いました。
大島:僕、結構逆算好きですね。自分で言うのもなんだけど、向いていると思います。本当に。そう意味では『なぜ君は~』は自分の作品では例外的。本当にどうやって終わらせるか何も考えずに取材していたので。
Q:この作品で、人物ドキュメンタリーとして唐さんに迫りきれなかった思いは、ある程度解消されたのでしょうか?
大島:ある程度は解消できたと思いました。でも映画の製作が終わってからも唐組の芝居を観に行って、カメラが回っていない所で唐さんと何度もお話する機会がありましたけど、話が噛み合っていると思ったことは一度もないですね(笑)。
そういう意味でちゃんと関係性が紡げていたかというと、自信は全然ないんです。ただ、ドキュメンタリーの被写体と取材者ということで言うと、この作品はある程度やりきったという感じです。
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監督/脚本/構成:大島 新
1969年神奈川県生まれ。早稲田大学卒業後、フジテレビに勤務。1999年フリーとなり、MBS「情熱大陸」フジテレビ「ザ・ノンフィクション」など数多くの番組を演出・プロデュース。2009年映像製作会社ネツゲンを設立。監督作品に『なぜ君は総理大臣になれないのか』(20/第94回キネマ旬報ベスト・テン文化映画第1位)『香川1区』(22)『国葬の日』(23/日本映画ペンクラブ会員選出 文化映画1位)など。プロデュース作品に『カレーライスを一から作る』(16/前田亜紀監督)『ぼけますから、よろしくお願いします。』(18/信友直子監督)『私のはなし 部落のはなし』(22/満若勇咲監督)『劇場版 センキョナンデス』(23/ダースレイダー、プチ鹿島監督)『うんこと死体の復権』(24/関野吉晴監督)など。
取材・文:稲垣哲也
TVディレクター。マンガや映画のクリエイターの妄執を描くドキュメンタリー企画の実現が個人的テーマ。過去に演出した番組には『劇画ゴッドファーザー マンガに革命を起こした男』(WOWOW)『たけし誕生 オイラの師匠と浅草』(NHK)『師弟物語~人生を変えた出会い~【田中将大×野村克也】』(NHK BSプレミアム)
『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』
12月14日(土)より東京・ポレポレ東中野ほか、横浜、名古屋、大阪ほかにて順次公開
配給:ネツゲン
(C)いまじん 蒼玄社 2007