被写体としての唐十郎
Q:カメラが回っている時と回っていない時で唐さんは変わるんですか?
大島:僕はあまり変わらないと思っていたけど、劇団員に聞くと、ちょっと張り切っちゃうみたいでした。ロケの時にも「事前に連絡をもらえますか?」と劇団員に言われたりしていましたね。唐さんは僕らが撮影に行くと、いいところを見せようとする。「こういうシーンをやろう」とか、自分が出ているシーンばかりやる(笑)。あと宴会をやりたがったりとか。
Q:サービス精神が旺盛なんですね。
大島:そうなんです。でも公演が近づいてくると、劇団員たちはセットも作らなければならないので稽古を予定通り進めていきたいから、そういう気遣いはありました。
『シアトリカル 唐十郎と劇団唐組の記録』(C)いまじん 蒼玄社 2007
Q:興味深かったのは、唐さんの表情の変わり方のスピード、その速度が凄いのである意味怖い…。
大島:怖いですよ。自然なところが何もない。
Q:そういう意味で確かに演じているんだろうけど、では「演じる」とは何かと考えさせられます。よく「自分の一番奥にある本当の自分とは?」といった問いかけがあります。でもおそらく人にはペルソナ(仮面)がいくつもあって、その複合体がその人。だから仮面の下に本当の自分がいるというのは幻想だと思います。
大島:同感ですね。だから唐さんがもし仮に四六時中演じているのだとしたら、それが自然とも言える事になります。