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『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』制作統括:橋本トミサブロウ × アニメーションプロデューサー:董哲 フルCGを作画でなぞるという挑戦 【CINEMORE ACADEMY Vol.34】

※向かって左より、董哲氏、橋本トミサブロウ氏。

『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』制作統括:橋本トミサブロウ × アニメーションプロデューサー:董哲 フルCGを作画でなぞるという挑戦 【CINEMORE ACADEMY Vol.34】

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フルCGを作画でなぞる



Q:実際の制作はどのように進められたのでしょうか。


董:今回は前提として「日本の作画アニメでいきたい」というオーダーがあり、それが大きなミッションでした。出てくるキャラクターは服装のデザインなど含めて線が多く、戦闘シーンでは何千、何百という兵士や馬が出てくる。なんといっても「ロード・オブ・ザ・リング」だし、静止カットを増やすわけにもいかない。そこで考えたのが、一旦全てをCGモデルで作って、それを作画でなぞるという手法でした。神山監督はCG作品の経験も多く、我々SOLAも元々はCG制作の会社。時間やコストも鑑みて、その手法で制作することにしました。


最初に行ったのはモーションキャプチャを使った撮影です。約1年かけて全カットを撮りました。今回の物語は人間同士の戦いが中心なので、ドラゴンやエルフ、ホビットなどはあまり出て来ません。その代わり、ローハンは馬の民族ゆえ馬がたくさん出てきます。モーションキャプチャでは馬は撮れないので、役者さんには馬の形をしたダンボールに乗ってもらい、その上でお芝居をしてもらいました。モーションキャプチャでは、ダンボールの馬でも体の重心移動やふとした仕草などはとてもリアルになる。人物の歩き方ひとつとっても、その人の重みや大きさまで表現できるんです。


その後、モーションキャプチャを元に作ったCGガイドをアニメーターに渡して作画するわけですが、神山監督がもっともこだわったのはライティングでした。アニメの場合、たとえば黄金を描いても、それが高価でゴージャスなことがなかなか伝わらない。そこを補完するのがライティングです。光をあてることにより陰影が作られ立体感も出てくる。光沢なども付加されて、より豪華な感じが演出されます。作画だけの場合は、資料等をもとに光を想像で描くしかないのですが、今回はCGの段階で3Dモデルに実際にライティングできるので、陰影や明暗を調整したものをアニメーターに渡し、それをもとに作画することになる。よりリアルで精度の高いライティングが可能となるわけです。



『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』LOTR TM MEE lic NLC. © 2024 WBEI


ただ、アニメの場合は、描いた絵を見せたいこともあってどうしても明るくなりがち。しかし神山監督は、実写のようなリアリティあるライティングを追求して、全カット細かく見た上で明暗や色味の調整を行なっていました。実写映画を例に出して説明することもありました。なので、元の絵では人物の全身が描かれているのに、実際に完成した絵ではライティングにより上半身しか見えないようなカットもある。せっかく描いた絵が見えなくなるのは残念ですが、それによって画面に立体感と奥行きが生まれてくる。あくまでも神山監督は、観ている人がどう感じるかを優先していました。ピーター・ジャクソンさんからは「ライティングは大変だったでしょう」と言ってもらえたそうです。


また、こういった作業フローの場合、描く枚数もとてつもなく多い。そこで今回は海外スタッフの力を頼り、中国や韓国、アメリカ、スペインから南米まで、いろんな国の方々にお願いしました。皆さん、神山監督の名前を聞いて積極的に参加していただきました。最終的には完成までに2年半かかり、動画枚数は13万枚にのぼりました。1カットに3ヶ月かかった箇所もあります。





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