※向かって左より、董哲氏、橋本トミサブロウ氏。
『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』制作統括:橋本トミサブロウ × アニメーションプロデューサー:董哲 フルCGを作画でなぞるという挑戦 【CINEMORE ACADEMY Vol.34】
J.R.R.トールキンの傑作原作を元に、ピーター・ジャクソン監督によって映画史にその名を刻んだファンタジー超大作『ロード・オブ・ザ・リング』3部作。その『ロード・オブ・ザ・リング』の知られざる200年前の物語をアニメーションで映画化した、『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』が劇場公開される。
物語の舞台は騎士の国ローハン。王国滅亡の危機に、運命を託されたのは一人の若き王女ヘラ。最大の敵はかつて共に育った幼馴染ウルフ。いま、〈中つ国〉の運命を左右する伝説の戦いの幕が上がる!
製作総指揮にはピーター・ジャクソンが名を連ねる、このハリウッド超大作の監督に大抜擢されたのは、世界中の熱狂的ファンに支持されている日本アニメーションの第一人者、神山健治氏。その神山監督と共に本作のアニメーション制作を手掛けたのが、日本のスタジオ「SOLA Entertainment」だ。
今回のCINEMORE ACADEMYでは、「SOLA Entertainment」にお邪魔して、制作統括の橋本トミサブロウ氏とアニメーションプロデューサーの董哲氏、お二人への取材を実施。この超大作の舞台裏について、たっぷりと話を伺った。
『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』あらすじ
偉大な王ヘルムに護られ、騎士の国ローハンの人々は平和に暮らしていた。だが、突然の攻撃を受け、美しい国が崩壊していく…。王国滅亡の危機に立ち向かう、ヘルム王の娘である若き王女へラ。最大の敵となるのは、かつてヘラと共に育ち、彼女に想いを寄せていた幼馴染のウルフだった。大鷲が空を舞い、ムマキルは暴走、オークが現れ、金色の指輪を集める“何者”かが暗躍し、白のサルマンが登場…。果たしてヘラは、誇り高き騎士の国と民の未来を救えるのか――!?
Index
WETAスタジオの全面協力
Q:本作は世界的にみてもかなり大きなプロジェクトだと思いますが、どのような経緯でSolaさんに制作の話が来たのでしょうか。
橋本:理由は色々ありますが、日本のアニメが世界で売れ始めていることが大きいですね。ここ数年でいうと、フルCGの『スーパードラゴンボールヒーローズ』(23〜24 OV)や、『呪術廻戦』『SPY×FAMILY』などのアニメがハリウッドのトップテンに入り始めた。映画会社がビジネス的にアニメを視野に入れていこうという流れが出てきました。ウチの代表のジョセフは元々ワーナーで仕事をしていて、『 アニマトリックス』などを作っていたプロデューサーです。「アニメだったら、ジョセフの会社だよね」という関係性がワーナーさんとありました。今回は大きなタイトルでしたが、タイミングもあって、数ある「ロード・オブ・ザリング」のプロジェクトの中の一つとして発注していただいた感じです。
Q:歴史のある『ロード・オブ・ザ・リング』という作品に参加されてみていかがでしたか。
橋本:やはりファンの方のプレッシャーはありましたね。原作のファンもいるし、映画のファンもいる。今回はそこにアニメも加わってくる。大きく3つのファンがいる中で、神山監督は相当悩まれたと思いますが、どれに偏ることもなくうまいバランスで着地させていただきました。
そういうプレッシャーの中、映画版を作られたWETAスタジオの全面的な協力は大きく、今回は映画の設定をほぼ全部出していただきました。通常これだけの世界を作るためには設定がすごく大変で、全てを監修し皆が納得するものを作る必要がある。でも今回はWETAさんが映画で作った設定がすでにあったので、初動としてはすごく助かりました。WETAさんの設定をお借りできなかったら、皆さんに納得いただけるようなものはなかなか出来なかったと思います。
背景やセットに関してもWETAさんが作られているものを使用していますが、今回の舞台は映画三部作の200年前の世界。ベースになった背景に少し新しい表現を入れています。それでもやはり世界観が同じことの担保は大きかったですね。
『ロード・オブ・ザ・リング/ローハンの戦い』LOTR TM MEE lic NLC. © 2024 WBEI
Q:200年前の世界を表現するにあたり、具体的にどういった作業をされたのでしょうか。
橋本:それについては企画の初期段階で、神山さんと色々話した記憶があります。現代の200年前と中世の200年前では文明の発達速度に違いがあるので、そこまで意識して世界観を後退させるようなことはしていません。エドラスの建物や町並み等は活気あふれる雰囲気にしましたが、戦い方などは特に変えませんでした。あまりやり過ぎると逆にファンの人たちから突っ込まれてしまうかなと。
董:魔法やモンスターが出てくる世界なので、魔法に頼ればいいし、大きいモンスターを捕まえられれば飛行機も船も必要ない(笑)。そんな解釈もありまして、結論としてはそんなに変えなくても良いよねと。あとは、サウロンがまだ大幅に活動していないので、庶民が楽しく暮らしています(笑)。.
橋本:平和で牧歌的な感じですね。闇の勢力もあったのでしょうが、まだそんなに表だって活動していない時期でした。
Q:『ロード・オブ・ザ・リング』の中で、今回「ローハンの戦い」が取り上げられたのには理由があったのでしょうか。
橋本:これはワーナーさんからのオーダーです。原作ファンの方はご存知かと思いますが、原作の中でも人気のあるキャラクターであるヘルム王は、まだ一度も映像化されていませんでした。今回そこにフォーカスするのは、非常にポジティブなことだなと。ただし、原作では数十ページあるかないかくらいの分量ですので、そこをどう膨らませていくのかはチャレンジでしたね。
舞台となる中つ国は、当時はゴンドールが南邦人に責められている状態。それに乗じて内戦が起こっていて、海からは何千何万という海賊が襲ってくる。当初のプロットではそれが冒頭のアバンになっていましたが、「こんなのどうやって作るの⁉︎」と(笑)。最終的には余計なところは削ぎ落とし、ヘルム王の一族とウルフたちとの民族間の闘争、そして家族愛といったところにフォーカスしていきました。