スクリーンに広がる光の温もりと、健やかな少女の無邪気な好奇心。映画『ルノワール』は生命力で満ち溢れていた。『PLAN 75』(22)で鮮烈なデビューを飾った早川千絵監督の最新作は、11歳の少女フキの物語。不道徳や死など大人の現実を垣間見つつも、フキはゆっくりと着実に成長していく。
第78回カンヌ国際映画祭でコンペティション部門に選出されたのも納得の出来栄え。早川監督はいかにして『ルノワール』を作り上げたのか。話を伺った。
『ルノワール』あらすじ
日本がバブル経済絶頂期にあった、1980年代後半のある夏。11歳のフキ(鈴木唯)は、両親と3人で郊外の家に暮らしている。ときには大人たちを戸惑わせるほどの豊かな感受性をもつ彼女は、得意の想像力を膨らませながら、自由気ままに過ごしていた。ときどき垣間見る大人の世界は、複雑な感情が絡み合い、どこか滑稽で刺激的。闘病中の父(リリー・フランキー)と、仕事に追われる母(石田ひかり)との間にはいつしか大きな溝が生まれていき、フキの日常も否応なしに揺らいでいく――。
Index
映画『泥の河』との出会い
Q:小学生の女の子が主人公ですが、物語の着想について教えてください。
早川:昔から子供の映画を撮りたいと思っていました。おそらく、私がフキと同じ歳くらいのときに「映画を作りたい」と思い始めたからだろうなと。こういうシーンやこういう映像が撮りたいという思いが当時からあり、それがこの何十年の間ずっと溜まっていました。それを1度全て吐き出して何か1本作れないかなと。
Q:本作の舞台が80年代だったことは、今の話と関係するのでしょうか。
早川:“伝言ダイヤル”がモチーフとして重要だったので、おのずと時代設定が80年代になりました。それが一番の理由ですね。
『ルノワール』© 2025「RENOIR」製作委員会 / International Partners
Q:子供の頃に「映画を作りたい」と思ったきっかけはあったのでしょうか。
早川:子供が主人公の『泥の河』(81)という作品を小学生の時に観たのですが、「この感覚わかる!」と映画を観て初めて思いました。今まで言語化できなかったり、誰にも言うことはなかったような感覚が、この映画の中で描かれていた。「私もこういう経験をしたことがある。こういう気持ちになった!わかるわかる!」と映画を観て初めて感じさせられたんです。そして、そういった気持ちをわかっている人がいて、その人がこの映画を作ったのだと、初めて作り手の存在を意識しました。「私もこういう映画を作る人になりたい」と。
『泥の河』は子供会のイベントみたいなところで上映されたのですが、白黒映画が始まったものですから「何でこんなつまらなそうなのを見せるんだ!」と最初はブーブー文句を言っていました(笑)。それが観終わったあとは「すごく面白かった!私この映画好き!」と、見せてくれた大人たちにわざわざ言いに行ったことを覚えています。