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終戦80年上映『この世界の片隅に』片渕須直監督 すずさんも担っていた“加害”とは【Director’s Interview Vol.505】

終戦80年上映『この世界の片隅に』片渕須直監督 すずさんも担っていた“加害”とは【Director’s Interview Vol.505】

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能動的に考えること



Q:公開当時の盛り上がりはすごかったですが、戦後80年である2025年の今、この作品はどう受け止められると思いますか。


片渕:こうのさんや僕が「この世界の片隅に」に秘めた部分は、ある種の能動性を持たないと解き明かしていけない。今はあまりにも「その場の感情」「自分勝手に抱いたイメージ」で世の中のいろんなものを切り分けられてしまっている。SNSに溢れている何の根拠もない言説を、差も重要な結論だと抱いてしまうこともある。あまりにも受動的すぎのような気がします。


この作品はそうしたことに対して抵抗にもならないし警鐘にもならないのですが、だからこそ今、これをもう一度突き付けたいという気持ちではあるわけです。『この世界の片隅に』という物語がどんなものなのかは、本来はどこまで考えてもきりがないもの。それを「いや、あの話はね」「あの映画はね」と一言で話せるとしたら、そのこと自体に疑問を抱いてほしいと思います。そんなに簡単なことでないはずなんですよ。


僕は、こうのさんの漫画「この世界の片隅に」は、自分で映画化なんかしなければ、ずっと枕元に置きながら一生をかけて少しずつ読み進めていくものだと思っていました。映画に作るために慌ててこの本が出す謎々の答えを知らなければならなかった。だから何だか損したような気分なんです(笑)。



終戦80年上映『この世界の片隅に』© 2019 こうの史代・コアミックス / 「この世界の片隅に」製作委員会


Q:いま世の中に起きていることを果たして自分がどこまで理解しているのか、恥ずかしながら大いに疑問があります。しかも、それに対して自分が能動的には動いておらず、日々の生活で精一杯になってしまっています。


片渕:それはすずさんと同じで、彼女はまさにそうだった。だから我々はすずさんより、もうちょっとちゃんとした生き方をしないといけない。すずさんよりも自由な時代を生きる我々にはそれが出来るはずなのに、そうさせようとしない何かに飲み込まれていく感じがしています。


Q:戦後の年数を経るにつれて、平和への思いや気運が確実に薄れてきており、自分が子供だった80年代とは変わってしまった気がします。


片渕:この映画の企画を始めたのは2010年だったんですが、そこから2016年に公開されるまでの間だけでも、世の中はだいぶ変わった感じがしました。「戦争は悪である」という皆が共通して持っていたような単純な認識が、2016年にはかなり通用しなくなってきて、それが2025年の今はあまりにもバラバラになってしまった。「あの戦争には正義があった」とか、そんなことを言い出している正体は一体何なんだろうなあ、と。2010年当時には、それでも我々はすこしずつ良くなってきた世の中に生きられている、という気持ちをいだけていた。この映画が再上映されることで、「すずさんは案外惰性的に戦時の日々を生きていたんじゃないか」と見てほしい。自分たちはどう違うのかな、と、考えて欲しいです。



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監督/脚本:片渕須直

アニメーション映画監督。1960年生まれ。日大芸術学部映画学科在学中から宮崎駿監督作品『名探偵ホームズ』に脚本家として参加。『魔女の宅急便』(89/宮崎駿監督)では演出補を務めた。T Vシリーズ『名犬ラッシー』(96)で監督デビュー。その後、長編『アリーテ姫』(01)を監督。TVシリーズ『BLACK LAGOON』(06)の監督・シリーズ構成・脚本。2009年には昭和30年代の山口県防府市に暮らす少女・新子の物語を描いた『マイマイ新子と千年の魔法』を監督。口コミで評判が広がり、異例のロングラン上映とアンコール上映を達成した。またNHKの復興支援ソング『花は咲く』のアニメ版(13/キャラクターデザイン:こうの史代)の監督も務めている。



取材・文: 香田史生

CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。


撮影:青木一成




終戦80年上映『この世界の片隅に』

8月1日(金)より期間限定公開

配給:東京テアトル

© 2019 こうの史代・コアミックス / 「この世界の片隅に」製作委員会

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