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『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』真利子哲也監督 ×『ひゃくえむ。』岩井澤健治監督 インディーズから新たな挑戦へ【Director’s Interview Vol.518】

『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』真利子哲也監督 ×『ひゃくえむ。』岩井澤健治監督 インディーズから新たな挑戦へ【Director’s Interview Vol.518】

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緩さ、余白、映画の魅力



真利子:岩井澤さん、石井輝男監督の事務所に入られていましたよね。石井さんと言えば、自分が10代の頃に公開していたのは『ねじ式』(98)とかを劇場で鑑賞していましたが、すごくはっきり覚えているのが『盲獣VS一寸法師』(01)。確かリリー・フランキーさんが初めて主演した映画です。自分は劇場に観に行ったのですが、岩井澤さんはその現場にいたんですよね。


岩井澤:そうですね。石井監督は自分の映画の原体験で、自分が映画を作る上でのスタートになっています。昔の東映時代の頃はわかりませんが、自分が関わった石井監督はいい意味で適当で、リラックスしてサクサク撮っていました。もちろん作品へのこだわりはありましたが、晩年の石井監督は映画を作るというよりも、若い子を集めて映画を作ることを楽しんでいたのかなと。その石井監督が最初についた人だったので、自分が作品を作っているときもいい意味で適当なところがあります(笑)。


真利子:それはアニメにおいてですか。


岩井澤:アニメを作る時も適当なところがありますね。『ひゃくえむ。』でこだわるところは当然ありましたが、こだわらないところはこだわらない。「え?そこはそれでいいの?」みたいなことを結構言われました。



『ひゃくえむ。』©魚豊・講談社/『ひゃくえむ。』製作委員会


真利子:でも、その緩さや余白が魅力ですよね。『音楽』もそこがすごく魅力だったし、映画ってそういうもんだなと。『ひゃくえむ。』は出来上がった翌日に試写で観せてもらったのですが、いやー、帰りは久々にバイクで突っ走りましたね。いい映画を観たときって稀にあるんです。なんか頭が真っ白になってバイクで突っ走って帰るっていう。しかも『ひゃくえむ。』の話や勝手な妄想をブツブツ1人で喋っていました。


これはセリフなども含めて原作自体に凄みがある作品ですが、それでもこの作品は岩井澤さんがやったからこその演出の勝利だと思いました。岩井澤さんが監督したっていうのが、映画の中に滲み出ていて、すごいものを観せてもらったなと。「あー!すごいの観たー!」って衝動で突っ走ってしまいました(笑)。松坂さんも染谷さんもすごくキャラクターに合っていたし、家に帰っても『ひゃくえむ。』になぞらえてずっと語っていましたから。何もわかってもないくせにね(笑)。


岩井澤:商業映画は初めてだったので、自分がやりたいことはどのくらいやれるのだろうかと不安はありました。自主制作と違ってたくさんの人が関わっているので、当然いろいろなチェックがありますし、何でもかんでも自分のやりたいようにスムーズに進められるわけではない。それでも表現としては自由にやらせてもらえました。結構大胆なことを取り入れられたので、自分のやり方をちゃんと理解してもらえていたなと。『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』はどうだったんですか? 企画の成り立ちは相当特殊ですよね?



『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』©Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.


真利子:『ディストラクション・ベイビーズ』を一緒に作ったプロデューサーと会社を作っていたので、企画として動き出すために香港の企画マーケットのHAFなどでピッチをしました。アメリカで撮るにあたり、オンラインで現地のスタッフと話しして脚本を練りながら、まずは短編から作り始めました。カメラマンと録音技師だけは日本から一緒に行ったスタッフでしたが、それ以外は全員現地スタッフ。言語が違うので何とか絵コンテを作ってカメラ位置などを説明し、現地のルールの中で試行錯誤しながら作り上げました。短編ができるとそれがイメージになるので、企画書や脚本の“紙”だけよりもずっとプレゼンしやすくなる。そこから制作資金や仲間を集めていき、結局何年もかかりましたが、東映をはじめ、海外の会社も参加してくれて、ようやく完成することができました。そういう意味で、かなり無謀な挑戦で他に例がないインディペンデント映画かもしれません。


いろんなことがあって何度か座礁しながらここまできたので、今回の映画が出来上がって自信になりました。どう評価されるかはこれからですが、日本の監督がオール海外ロケでほぼ現地の言葉で作った映画って今まであまりなかったと思います。何とか形にできてよかったですね。





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