
『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』真利子哲也監督 ×『ひゃくえむ。』岩井澤健治監督 インディーズから新たな挑戦へ【Director’s Interview Vol.518】
自身の会社から新たな挑戦へ
Q:2作とも監督自身が設立された制作会社が、今回の制作に携わっています。設立の意図や経緯についてお聞かせください。※制作会社「ロジ」(真利子監督)、制作会社「ロックンロール・マウンテン」(岩井澤監督)
真利子:自分の活動の幅を広げたいからですね。自分から企画を発信するときも、より自由な発想で責任もって動くために会社を設立しました。今回、アメリカで映画を撮るために自分たちで米国法人も設立しましたが、それは日本に自分の会社があったからできたことだと思ってます。
岩井澤:自分が会社を立ち上げたのは『音楽』を作ったときでした。当時は「これはすごい大ヒットするぞ!」と麻痺していたので(笑)、権利の管理など含めて会社という受け皿を作らねばと、個人事務所として作ったのが最初です。スタジオとして動かすイメージは全然ありませんでした。
アニメ監督としてオファーが来た場合は、普通だったら監督としてどこかのスタジオに入ることになるのですが、自分の作り方がロトスコープという特殊な形だったので、今回はそうなりませんでした。いろんなスタジオにロトスコープの話を持ちかけたのですが、どこもその制作フローを持っておらず、興味は持ってもらっても決定までには至りませんでした。とはいえ今回は、世界陸上の開催に合わせて2025年9月の公開が必須だったため、だんだん時間がなくなってきた。そこでもう「自分のやり方でいくなら、自分の会社をスタジオにしてやるしかない!」とプロデューサーに相談し、そこからはSNSなどを駆使してスタッフを集めていきました。集まったのは全く新人の子たちと、こういう作り方に興味を持ってくれた商業でバリバリやっているプロの人たち。メジャーとインディーズのハイブリッドなスタッフで作ることになりました。そういった経緯もあり、商業映画でもインディペンデントな体制で作ることになりました。
Q:では監督としてのオファーが来たものの、結果としてプロデューサー的な動きもすることになったと。
岩井澤:そうですね。プロデューサーをやると監督に集中できなかったりするので、本当は他にプロデューサーがいた方が絶対によかったのですが、何しろ締め切りが決まっている企画だったので、最終的には自分のスタイルでやるしかなかった。見切り発車で動いた部分もありましたね。でも本当に完成して良かったです(笑)。
左から真利子哲也監督 、岩井澤健治監督
Q:今回はそれぞれのスタイルを貫いた映画が出来ましたが、今後はどういった形で映画を作っていかれるのでしょうか。
真利子:企画の内容に興味があれば、オファーでも自分から発信するものでもやるつもりでいます。今回の『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』はなかなか踏み込めない挑戦で、新しい変化や発見に満ちていた。何であれ、またそういうものが見つかれば挑戦していくつもりです。
岩井澤:自分は基本的には原作モノが多くて、オリジナルでやろうという感じではないのですが、面白い原作があって自分がやれば更に面白くなると思えたら、どういう企画でもやりたいです。ただ、次もまたスポーツみたいな感じだと難しいかもしれません(笑)。『音楽』と『ひゃくえむ。』は全然違う原作でしたが、原作の良さや自分のやりたい演出も含めて、映画としてどう落とし込めるかを常に考えながら作ったので、相性がいいものと出会えるといいですね。
真利子:『ひゃくえむ。』を岩井澤さんにぶつけた人の洞察力はすごいですね。
岩井澤:最初に話をもらった時は、上手くできるかな…とは思いました。
真利子:『ひゃくえむ。』は本当に面白かったのでぜひ観てもらいたい!『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』もよろしくお願いします(笑)。
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『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』監督/脚本:真利子哲也
その独自の創造性で、現代の日本映画界において最も注目を集める映画作家の一人。修了作品で長編デビュー作『イエローキッド』は、バンクーバー国際映画祭ほか、香港、ロッテルダム、サン・セバスチャンなどの映画祭にて招待上映された。初の商業映画『ディストラクション・ベイビーズ』も、ロカルノ国際映画祭で最優秀新進監督賞、ナント三大陸映画祭で銀の気球賞を受賞するなど、国際的に高く評価される。日本ではキネマ旬報ベスト・テンで3冠、ヨコハマ映画祭で6冠に輝いた。第3作『宮本から君へ』は、アジア映画批評家協会NETPAC AWARD 2020(香港・中国)最優秀脚本賞にノミネートされ、日本では日刊スポーツ映画大賞やブルーリボン賞などで最優秀監督賞を受賞。2019年3月から1年間、ハーバード大学ライシャワー研究所客員研究員としてボストンに滞在。シカゴ国際映画祭の審査員として招かれた縁から、本作の構想をはじめる。
『ひゃくえむ。』監督:岩井澤健治
1981年、東京都生まれ。高校卒業後に映画の世界へ進み、石井輝男監督の現場にも参加。実写映画の経験を経て、独学でアニメーション制作を始める。2008年、初の短編アニメーション作品『福来町、トンネル路地の男』を発表。
7年半をかけて完成させた長編アニメーション『音楽』(2019)は、オタワ国際アニメーション映画祭でグランプリを受賞。国内でもスマッシュヒットを記録し、大きな注目を集めた。初の商業作品となる劇場アニメーション 『ひゃくえむ。』が、9月19日より全国公開される。
取材・文: 香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』
全国絶賛上映中
配給:東映
©Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.
『ひゃくえむ。』
9月19日(金)全国公開
配給:ポニーキャニオン/アスミック・エース
©魚豊・講談社/『ひゃくえむ。』製作委員会
■『音楽 -ブラッシュアップ版-』アフタートークに真利子哲也監督が登壇!
日程:9月21日(日)
会場:新宿武蔵野館
https://shinjuku.musashino-k.jp
時間:21:00の回上映後
トークゲスト:真利子哲也監督(『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』)、岩井澤賢治監督(『音楽』『ひゃくえむ。』)