
『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』オダギリジョー監督 ドラマから映画へ、意識したものとは【Director’s Interview Vol.523】
オダギリジョーが監督したテレビドラマ「オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ」は、エンターテインメントに振り切った面白さがあった。映画版の本作もドラマのトーンを受け継ぎ話が進んでいると思いきや、まさかの意表を突いた展開に…。ポップなおふざけコメディの空気を纏いつつも、確信犯的に自らの世界に導くオダギリ監督の手腕に驚かされる。
映画への深い愛も滲み出ていた『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』だが、オダギリジョー監督はいかにして作り上げたのか。話を伺った。
『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』あらすじ
狭間県警鑑識課警察犬係のハンドラー・青葉一平(池松壮亮)。一平の相棒は、数々の難事件を解決に導いた伝説の警察犬・ルドルフの子供であるオリバー。しかし、一平には、どういうわけか、オリバーが口が悪くやる気がない、女好きで慢性鼻炎の着ぐるみのおじさん(オダギリジョー)に見えている。ある日、一平や鑑識課メンバーの前に、隣の如月県のカリスマハンドラー・羽衣弥生(深津絵里)がやってきた。如月県でスーパーボランティアのコニシさん(佐藤浩市)が行方不明になったため、一平とオリバーに捜査協力を求めてきたのだった。「コニシさんが海に消えていくのを見た」という目撃情報を基に、コニシさんのリヤカーが残されていた海辺のホテルに向かった一平とオリバー、羽衣だったが…
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“映画”として意識したもの
Q:今回描かれる世界は、いつか映画化したいと温めていたものなのでしょうか。
オダギリ:この世界の何が本当で何が虚構なのか、よくわからないときがあるんですよね。自分の生きているこの世界はどこまでリアルに存在しているのだろうか、他者の存在とどういう交わり方をしているのだろうか。例えば、友達と昔話をしているときに、記憶が全く違うことがあったりしますよね。友達に「そんなことしてないよ」と言われると、一体どちらの記憶が正しかったのか、わからなくなる。もしくは自分と友達の世界は少しだけズレたものなのかもしれない。そのあやふやさみたいなものって、多分皆一度は感じているのではないでしょうか。そう考えると、もしかしたらこの世界にはいろんな次元が多層的に存在していてもおかしくない。以前から、そういうものを形にしてみたいという思いがありました。
Q:その仮説を踏まえて、どのように脚本に落とし込んでいかれたのでしょうか。
オダギリ:テレビシリーズの全6話では、一平とオリバーが住む街の事件などを通して、ひとつの区切りをつけたと思っているので、全く新しいストーリーラインを考えることから始めました。テレビシリーズの続きの話だと思う人もいれば、もしかしたらあの世界とは次元が違うのかもしれない、突如全く違う話が始まったように思う人もいるかもしれない。そこは観る人が自由に受け取れるようなストーリーにしようと書き進めました。いくつもの次元を行き来するような構成を作り、その橋渡しとしてドアを象徴的に使う事にしました。
『THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE』© 2025「THE オリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」製作委員会
Q:今回作る作品は、映画館で上映される“映画”として意識したものはありますか。
オダギリ:結果的には、そこに重点を置いた作品にしています。今の時代、手軽さや便利さから配信で映画を観ることが多くなりましたよね。なかなか映画館に行って映画を観る機会は減ったのかなと思います。それは仕方がないことで、否定するつもりはありませんが、映画館は特別な場所であることは忘れて欲しくないんです。外の音が完全に遮断され、スマホの電源を切り、日常生活や現実から離れた環境で、作品世界にどっぷりと浸れます。それはやはり家では味わうことが出来ない、特別な体験なんですよね。であれば、この作品はむしろ映画館で観る為の作品にしようと思いました。その中のひとつの大きなファクターは音響でした。劇場の5.1サラウンドを最大限に活かして、それぞれの音を細かくデザインし置いてあります。劇場だからこそ聞こえる繊細な音がたくさん仕込まれているので、家のテレビやPCなどではなかなかその奥行きは再現できないと思います。