実写で撮った“鏡の世界”
Q:プリズムのような鏡の世界も独特でした。
豊田:面白そうだったので、「鏡でやりたい」と言ったのは自分なのですが、実際にどうなるのかは現場で建て込むまでよくわからなかった。作ってみて初めて「なるほど、こうなるのか」と。遠近感を付けて小さくなるように作っているから、歩ける範囲が数メートルしかなく、カメラを入れると鏡に反射する。カメラ位置を決めるのが大変でした。そのセットを見ながら「これは一体どう撮るのが正解なんだ?」と。これまで現場で迷ったことは一度もないのですが、今回は初めて迷いましたね。みんなちょっと頭がおかしくなってた(笑)。ここにカメラを置いて撮れば面白いけれど、絶対に鏡に写っちゃう。現場で喧々諤々やって2日間徹夜しました。結局、最終的には好きな位置で撮って、後でCGで消しました。ただ、多角的に写ってくるので消す要素が多いんですよ。それでまたお金がかかっちゃう(苦笑)。
Q:合成かLEDスクリーンの前での撮影かなと思いましたが、実写だったのですね。
豊田:あれは栃木の体育館を借りて、そこにセットを建てたんです。だからスタジオじゃないんですよ。よくやりましたね。もうできません(笑)。
『次元を超える』©次元超越体/DIMENSIONS
Q:海外の反応は良さそうですが、ご自身の中での手応えはありますか。
豊田:海外からは引っ張りだこですね。これまでの映画の文法やカット割りでやっていないので、「観ていて飽きない」みたいなことはよく言われます。ホドロフスキーやキューブリックに例えられることも多いのですが、「このローバジェットでよくやった!」と褒めてもらっています。
Q:映画としての答えは提示しませんが、エンターテインメントとしての牽引力を感じます。観客のことはどこまで意識されていますか。
豊田:僕はもう30年映画をやっているので、観客が離れると困っちゃう(笑)。それでも、どこまでついて来れるかな?どこまで突き放していいのかな?と常に考えながら作っていました。前半と後半で撮影が1年空いて、その間に脚本も多少変わりました。どんな落としどころにするのか、撮影中も最後まで悩んだのですが、今の終わり方がこの映画っぽいなと。結局答えは出ませんが、僕が答えを出してもシラけるだけかなと。
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監督/脚本/エグゼクティブプロデューサー:豊田利晃
1969年3月10日、大阪府出身。『王手』(91)で脚本家デビュー、『ポルノスター』(98)で監督デビューし、第39回日本映画監督協会新人賞、第3回みちのく国際ミステリー映画祭新人監督奨励賞などを受賞。主な監督作は、『アンチェイン』(01)、『青い春』(01)、『ナイン・ソウルズ』(03)、『空中庭園』(05)、『蘇りの血』(09)、『モンスターズクラブ』(11)、『I'M FLASH!』(12)、『クローズ EXPLODE』(13)、『泣き虫しょったんの奇跡』(18)、『プラネティスト』(20)、『戦慄せしめよ』(21)など。狼蘇山シリーズとしては、『狼煙が呼ぶ』(19)、『破壊の日』(20)、『全員切腹』(21)、『生きている。』(22)、『ここにいる。』(23)、『すぐにゆく。』(24)なども監督している。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
撮影:青木一成
『次元を超える』
10月17日(金)ユーロスペースほか全国順次公開
窪塚洋介 松田龍平
千原ジュニア 芋生 悠 / 渋川清彦 東出昌大
板尾創路 祷キララ 窪塚愛流(声の出演) 飯田団紅 マメ山田
監督・脚本・エグゼクティブプロデューサー:豊田利晃
エンディングテーマ:「抱きしめたい」The Birthday(UNIVERSAL SIGMA)
音楽:Sons of Kemet Mars89 中込健太(鼓童) 住吉佑太(鼓童) ヤマジカズヒデ
製作:豊田組
配給:スターサンズ
©次元超越体/DIMENSIONS