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『港のひかり』藤井道人監督 伝統に飛び込んで得た進化【Director’s Interview Vol.528】

『港のひかり』藤井道人監督 伝統に飛び込んで得た進化【Director’s Interview Vol.528】

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作品を悪くしようと思っている人は、一人もいない



Q:とはいえ、尊敬しすぎてイエスマンになったら意味がないですよね。ご自身の中ではどんなシフトを敷かれて臨まれましたか?


藤井:とにかく予習して「こう来たらこう返す」というパターンを何個もシミュレーションしておきました。役者に対しても行うことですが、その数がもっと多かった気がします。ただ、これは根本的な考えですが――映画に関わる誰も「悪くしよう」なんて思っている人は1人もいないんです。もちろん、組織の中には怠惰な人間がいたり、自分さえよければいいと思う利己的な人はいますが、皆の目印がものづくりに向かっている最中って悪意がある人はいないと僕は思っています。『港のひかり』でその環境を作ってくれているのは、ほかならぬ大作さんでした。人にオペレーションさせたりせずに自分でカメラを背負う姿に周りが動くわけですから、僕としても小細工をするというよりは俳優の芝居をしっかりつけることに腐心しました。きっとそういう役割で、昔は映画を作っていたんじゃないでしょうか。大作さんが想定外の画の選び方をしたとしても、まずは信じることから始めるといいますか。


Q:その摩擦すらも歓迎できるのは、素直にすごいですね。


藤井:正直滅茶苦茶疲れますし、皆疲れるからやらないんだと思います。でも、そこを避けて40代に入ってから後悔するような人間になりたくなくて。30代のうちは誰に何を言われようが365日働いて結果を出そうと、死ぬ気で取り組んできました。自分のやりたいことや得意なことで保守的にやるというより、まだ失敗しても大丈夫な30代の内はとにかくチャレンジし尽くそうと。木村大作さんに突撃しにいくなんて、今じゃないとできませんから(笑)。でもそれって、僕が僕自身に「失敗したって大丈夫」と期待しているからだとも思うのです。自分に期待できない/していない人は、どうしても築き上げたキャリアを守りたがるかと思うのですが、僕は30代の内に全部やっておこうと思えて、実際に行動できて良かったなと感じています。



『港のひかり』©2025「港のひかり」製作委員会


Q:『港のひかり』で伝統に触れて、いち観客として映画の見方は変わりましたか?


藤井:これは僕の個人的な感覚ですが、ストーリーライティングやその人の人生を観ることが好きなんです。そういう意味では、大きい映画館はもちろん好きですが、スマートフォンの世界で映画を観ることにも抵抗はありませんでした。ただ、本作を経たことで「やっぱり劇場で観たい」という想いは強くなりましたね。映画を観る時の覚悟自体は劇場のときも配信のときも自分の中では変わりませんが、目的が変わった感覚です。


『港のひかり』は昔から劇場で映画を観てきた方々にしっかり届いてほしいですし、それが答えだと感じています。ちょうどいま「イクサガミ」の仕上げの真っ最中ですが、配信シリーズであるこちらとは考え方が全く違っています。その両極を同じ時期に経験させてもらえたのは非常に光栄で、幸運でした。



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監督/脚本:藤井道人

1986年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010年に映像集団「BABEL LABEL」を設立。伊坂幸太郎原作『オー!ファーザー』(14)で商業作品デビュー。以降『青の帰り道』(18)『デイアンドナイト』『新聞記者』(19)『宇宙で一番明るい屋根』(20)『ヤクザと家族 The Family』(21)『余命10年』(22)『ヴィレッジ』『最後まで行く』(23)『パレード』(Netflixオリジナル)『青春18×2 君へと続く道』(24)など精力的に作品を発表。『正体』(24)が第48回日本アカデミー賞にて最優秀監督賞含む12部門13の優秀賞を受賞ほか、映画賞を多数受賞。2015年11月13日〜Netflixシリーズ『イクサガミ』の世界独占配信を開始。



取材・文:SYO

1987年福井県生。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て2020年に独立。映画・アニメ・ドラマを中心に、インタビューやコラム執筆のほか、トークイベント・映画情報番組に出演。2023年公開『ヴィレッジ』『正体』ほか藤井道人監督の作品に協力。オフィシャルライターとして『シン・仮面ライダー』『キリエのうた』『カラオケ行こ!』『青春18×2 君へと続く道』『Cloud』等に携わるほか、『市子』『52ヘルツのクジラたち』『朽ちないサクラ』ほかで杉咲花氏の公式インタビューを担当。装苑、WOWOW等で連載中。X・Instagram「syocinema」




『港のひかり』

11月14日(金)全国公開中

配給:東映

©2025「港のひかり」製作委員会

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