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『港のひかり』藤井道人監督 伝統に飛び込んで得た進化【Director’s Interview Vol.528】

『港のひかり』藤井道人監督 伝統に飛び込んで得た進化【Director’s Interview Vol.528】

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こういう座組は皆怖がってやらないと思う



Q:日本映画の歴史自体に現場レベルで触れる機会となったのですね。


藤井:そうですね。僕は自主映画上がりのため、師匠がいないんです。「映画づくりはこうだ」という不文律がわからないまま現場で試行錯誤してきました。あえて師匠がいるとしたら、自分の映画づくりに携わってくれた全員になるのですが、全く違った「伝統」の中で生まれてきた映画を2カ月間で体感出来ました。あの経験を経て思うのは、知っているからこそ言えることが増えたということ。フィルムの良さがわかったことでデジタルの良さを再確認できましたし、この二つが分断されてはいけないという哲学も自分の身になった気がします。


たぶん、皆こういった座組は怖くてやらないと思いますし、その気持ちも痛いほどわかります。僕自身が「40代に入ったらこうしたい」が明確に見えていたからこそ、自分の中で必要な作品として取り組めました。そして何より、このチャンスをいただけたのは舘さんのおかげ。彼をいかに魅力的に映せるかが勝負どころだと捉えて、そこはブラさないようにしていました。


Q:仕上げ作業にも、木村大作さんは付きっきりで同席されていたとか。


藤井:毎日横にいました(笑)。僕がずっと一緒にやっている編集の古川達馬とは、一回編集したものをあえて1〜2日空けて頭をリセットしてからもう一回観てフィードバックして修正して――といったようなペースで、気になることをゼロにしていく形を取っています。今回もそんな感じで、数日空けてもう一回映像を観たら「俺、こんなこと言ったっけ?」という映像が間に挟まっていて(笑)。それは大作さんの指示なんです。彼は自分の撮った大事な画をいまだに鮮明に覚えていて、ご自身のアーカイブから月を撮った映像なんかを探してきて盛り込んでくれました。



『港のひかり』©2025「港のひかり」製作委員会


Q:半ば合作に近い形といいますか。


藤井:本当に「継承」ですよね。僕たちデジタル世代は効率的なものや理論的なものを好みますが、先輩たちは映画づくりに情緒やロマンを追い求めている。今は全てが数値化されたぶん形骸化も感じますが、そんな令和の世に逆行するものを撮れたのは大きな自信になりました。


Q:藤井監督がリアリティベース、木村さんがロマンベースと考えると、現場で当然ぶつかる瞬間も出てきますよね。どう折り合いをつけていかれたのでしょう。


藤井:リスペクトする、信じることが一番じゃないでしょうか。自分がやりたいものをミリ単位で制御しながら作る映画づくりが30代後半の自分だとしたら、全く違う環境でしたから。でもそれは、僕が大作さんを選択したことに起因することだと思うんです。それを信じて、委ねてみようと考えました。自分じゃ考えつかないショットもたくさん収められましたから。


Q:藤井監督は毎作品ビジュアルコンセプトを立てますよね。『正体』は水、「イクサガミ」は葉脈といったように。『港のひかり』ではどうだったのでしょう。


藤井:それでいうと光なのですが、グリップを握っているのは自分ではありませんでした。とはいえ大作さんも「そのうえで、自分の信じる画を撮る」ことを行ってくれました。





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