モニターがない初めての環境で学んだ、昔ながらの映画づくり
Q:今回は撮影現場に確認用のモニターがありませんでしたよね。事前にそういったお話もあったかとは思うのですが、画作りに関しては事前にすり合わせてから現場入りしたのでしょうか。
藤井:降旗康男監督たちとやられてきた自分のこだわりを変えずに臨むとは当初から伺っていました。大作さんは映画に憑りつかれた愛に溢れた方なので、きっと“本当の映画づくりを見せてあげたい”という親心があったのではないかと思います。
僕はモニターがない現場は大学生以来かと思いますが、当時もカメラマンの横からどういう画になっているかは覗き見ることができました。そう考えると、全く見られない環境に置かれたことで自分がどう作用するかの好奇心の方が強かったです。
今回はモニターのない世界で40人のスタッフで撮りきりましたが、こういう環境下だと皆が俳優の方を向いていると言いますか、誰もサボることなく集中していたのは良かったです。僕がノーモニターの現場で学んだのは、どう現場の集中力を高めていくかということでした。モニターがないことでチームにグルーヴ感が生まれて一致団結するのは利点だと思ったので、デジタルに戻ってからも意識している部分です。

『港のひかり』©2025「港のひかり」製作委員会
Q:モニターで確認できない中、どうOKか否かのジャッジを下していたのでしょう。
藤井:基本的に一発OKしなければならないと覚悟を決めました。だからテストを何回も行って、回すのは1回。今までやってきたこととは真逆ですよね。今まではテストは1回、本番10回といったような配分でしたから。たとえば「ここで瞬きはしないでほしい」といったように細部の精度を上げていくのが自分のやり方でしたが、今回は裸眼で生の芝居を観ているのでどう映っているかはカメラマンに委ねるところが多かったです。良い部分もありますが、初めての体験であるぶん当然ながら心労もありました。
Q:藤井監督は現場中などにも現状撮れている素材を使ったシズルリール(短尺のPV)を作られますよね。作品のビジョンを再確認でき、現場の士気も上がるアプローチかと思いますが今回は行われたのでしょうか。
藤井:大作さんがホテルの一室にスタッフを呼んで、フィルムを現像したものをビデオにして「いまこういうものが撮れているぞ」と見せて下さいました。ただ、音のない映像を通しで全部見せられ続けるんです。僕の場合だと、2分か3分にまとめて作品のトーンやストーリーがある程度分かる仕様にしているじゃないですか。これを映画会社の人に見せたら、作品の完成を待たなくても海外に向けた宣伝やセールスができるでしょうし、様々な対応策として行っているのですが、『港のひかり』の場合は2日間で撮った40分くらいの無音の素材を無言で観続ける。昔の人たちはこうやっていたんだなと知ることができたのは大きかったです。地方ロケの時など、旅館の宴会場を貸し切ってスクリーンにラッシュを投影して皆で観ていたそうです。