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未来は放送中、男は逃走中ー『バトルランナー』【川原瑞丸のCINEMONOLOGUE Vol.72】

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希薄な世界で本物のボディを持つベン・リチャーズ



 エドガー・ライト監督、グレン・パウエル主演の『ランニング・マン』(25)の公開にともなって再注目されている『バトルランナー』。邦題では一見わかりづらいが、こちらも原題は『The Running Man』。ライトの新作と同じく、リチャード・バックマン(スティーヴン・キングの別名義)による同名小説を原作とした映画化作品だ。もっとも邦題が示すように内容や趣は原作とは大幅に異なる、らしい。ぼくは今回の『ランニング・マン』も未見なら原作も未読なので、ここではあくまで『バトルランナー』についてだけフォーカスしていきたいと思う。


 全体主義国家が支配する近未来。人々に与えられた数少ない娯楽のひとつが巨大なテレビネットワークであり、中でもリアリティ番組「ランニングマン」は下から上まで階級を問わず大衆からの絶大な支持を得ていた。人気司会者デーモン・キリアンが取り仕切るこの残虐なショーは、司法省との取り決めで供給される「凶悪犯」を「ランナー」としてエリア内に放ち、番組側が用意した「ストーカー」と呼ばれる武装した追跡者に追わせて処刑するというものだ。


 アーノルド・シュワルツェネッガー扮する警官ベン・リチャーズは、暴動を起こした市民への発砲命令を拒否するが、音声記録の編集によって反対に虐殺の実行犯に仕立て上げられてしまう。強靭な肉体と着せられている汚名をキリアンから評価されたたベンは、レジスタンス組織とのつながりを持つ囚人仲間や、当局の不正を知ってしまったテレビ局員アンバーとともに、「ランナー」として無慈悲な処刑ゲームに参加することになる。


 ディストピア的未来世界はあくまでストーリーのために用意された必要最低限の背景にとどまるが、作り込みのない無味乾燥な舞台の中でシュワルツェネッガーの本物のボディが際立つというものだろう。貧富の差が激しく、またその格差に関係なく大衆がテレビに夢中であることのほかには、生活のようなものはほとんど描かれないし、テレビを統治のツールとして利用している当の体制というのもどんなタイプのものか描かれることはない。邦題は案外『ブレードランナー』(82)を意識したところもあるかもしれないが、あんなふうに背景都市がストーリーを背負うことはもちろんない。


 本作でストーリーを語るのはあくまでボディだ。装飾過多で露悪的なテレビ番組という舞台の中で、ベンの肉体だけが実在感を帯びる。キリアンはそのボディに商品としての価値、ショーの材料としてのおもしろさを見出すわけだが、ベンが番組開始時に着せられる黄色いジャンプスーツは、言わばパッケージのようなものだ。しかし、使い捨てのアクション・フィギュアとして番組に引き入れられながらも彼が黙って消費されるはずもなく、やがては番組の構造そのものを揺るがしていくことになる。




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