ここまで映画映えする“横浜”を観たことがなかったーー。利重剛監督、13年ぶりの長編監督作品『ラプソディ・ラプソディ』を観ると、ニューヨークの映画を観たかのような幸福な読後感に包まれる。横浜という街がまるでニューヨークのように思えてくるのだ。
勝手に婚姻届を出され、知らないうちに結婚していた男女の物語。小さなサスペンスをきっかけに人々が出会いドラマが生まれる。オーソドックスな設定をここまで魅力的な映画に仕立てたのは、利重監督の手腕に他ならない。“利重剛”という名前を聞いて“映画監督”という言葉を思い浮かべる世代からすると、納得の内容に思わず嬉しくなってしまう。
利重監督はいかにして『ラプソディ・ラプソディ』を作り上げたのか。話を伺った。
『ラプソディ・ラプソディ』あらすじ
“絶対に怒らない男”・夏野幹夫。ある日、役所で受け取った住民票を何気なく見ると、そこには全く身に覚えのない“続柄:妻”の文字が―!どうやら、1年も前に<繁子>という名の女性が自分と勝手に籍を入れていたらしい。でも、一体なぜ?何のために―?正体不明の妻を探して街中を探し回る幹夫。諦めかけていたその時、偶然前を通りかかった花屋から「夏野さーん」と呼ぶ声が…!繁子との緊張の初対面…かと思いきや繁子は幹夫を見るなり猛ダッシュで逃走!「話をさせてください!」という幹夫の声も届かず、街中を走り回り追いかけっこする二人だったが、幹夫はタイミング悪くトラックと衝突してしまう…。予想外の出会いから始まった二人の関係の行方は――!?
Index
ラブストーリーに合う街、横浜
Q:アメリカ映画を観ているような感覚がありました。劇中の横浜の街並みがニューヨークを想起させ、摩天楼とみなとみらい、セントラルパークと山下公園が重なるようでした。
利重:ニューヨークのラブストーリーやラブコメディのように、性格の合わない人たちが少しずつ近づいていくような、そんな空気感を作品に込めました。舞台は横浜なので、港の風景も含めてシアトルのような映し方ができたらいいなと。撮影の池田直矢さんとはそんな話をしていました。
音楽を担当してくださった大西順子さんは、長くニューヨークで活動されていた方。彼女も「アメリカ映画のその感じは好きだから、少し昔のジャズのスタイルにしましょうか」と言ってくれて、チーム全体で「今まで観てきた映画のイメージ」を共有していました。例えばクリント・イーストウッドの作品で、「MALPASO PRODUCTIONS」「Clint Eastwood in」とタイトルがゆっくり出てくるワクワク感のような、今の映画にはないゆったりとした始まりを大切にしています。

『ラプソディ・ラプソディ』(c)2026 利重 剛
Q:横浜の街が非常に魅力的に描かれていました。「こんな撮り方があったのか」と驚くような、新しい魅力に溢れていますね。
利重:ある方からは「インスタ映えのしない横浜がたくさん映っている」と言われましたが、まさにその通りで、観光映画ではなく「生活する街」として横浜を撮っています。現実の道をそのまま映すことにこだわりました。
ニューヨーク、シアトル、ヒューストンといった街が物語の主役になるように、横浜という街にも似合うストーリーがある。横浜は歴史もあれば最先端もあり、中華街、山の手、労働者の街が、狭い範囲でひしめき合っていて、誰と誰が出会ってもおかしくない。そこがラブストーリーに非常に合うんです。
僕は横浜出身ですが、外から来る人は横浜を「都会の一部」や「東京のどこか」として撮ってしまいがち。あまりにも有名だからと山下公園を避けて撮ったりすることもありますが、今回はあえて自分たちが好きな場所を隠さずに映すことで、横浜ならではの意外性が出せたと思います。