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『大統領のケーキ』ハサン・ハーディ監督 映画を通じて他者の視点を知ること【Director’s Interview Vol.572】

『大統領のケーキ』ハサン・ハーディ監督 映画を通じて他者の視点を知ること【Director’s Interview Vol.572】

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1990年代、サダム・フセイン独裁政権下のイラク。大統領の誕生日を祝うためのケーキ作りに奮闘する少女のみずみずしい姿を通して、過酷な現実と人間そのものを描き出す。監督自身の自伝的体験をベースにした本作『大統領のケーキ』は、世界中が絶賛。アカデミー賞®国際長編映画賞のショートリストに選出され、カンヌ国際映画祭で新人監督賞(カメラ・ドール)、監督週間観客賞の2冠を果たすという、イラク映画史上初の快挙を成し遂げた。


今この時代に、90年代・独裁政権下の生活を描く意義とは。来日したハサン・ハーディ監督に話を伺った。


※本記事は物語の結末や核心に触れている部分があるため、映画未見の方はご注意ください。



『大統領のケーキ』あらすじ

祖母と二人で暮らす9歳のラミアは、学校のくじ引きで「大統領のケーキ係」に選ばれてしまう。フセイン大統領の誕生日に、お祝いのケーキを準備する係だ。翌朝、ラミアは祖母に連れられて、父の形見の時計と、“友達”の雄鶏ヒンディとともに町へ出かける。だが、日々の食卓も満足に揃えられない祖母の目的はケーキではなく、ラミアを養子に出すことだった。思わず逃げ出したラミアは、自らの手でケーキの材料を集めれば、祖母との暮らしを続けられると信じて、クラスメイトのサイードと協力して町を駆け回る。十分なお金も時間もなく、あるのは知恵と想像力だけ── はたして、“名誉あるケーキ作り”の行方は?


Index


アートがもたらす恩恵



Q:本作はご自身の体験を元にされているそうですが、「自分の体験を映画にする」ということにはどのような意義があると思いますか。


ハーディ:それはとても意義深いことです。自分が成長する過程の極めて個人的な部分を、初めて世界と共有するわけですから。それを探求し、誰もが見られるように外に出す。そして同時に、人々が物語に没入し私が経験したことと繋がってくれる。非常に有意義で感情を大きく揺さぶられる体験でした。


しかし同時に予想外だったのは、この作業が、私自身に区切りと安堵を与えてくれるといった、セラピーのような効果をもたらしたことです。記憶を思い出し、それを辿り、再現しようとするプロセスには多くの葛藤や痛みがありましたが、結果的にそれが私に一種の救いをもたらしてくれたのだと思います。



『大統領のケーキ』ⓒ 2025 TPC FILM LLC. All Rights Reserved.


Q:90年代のサダム・フセイン独裁政権下のイラクが舞台ですが、本作を観ると当時の思想統制の徹底ぶりがよくわかります。その事実はあなたたちの世代に今どのような影響を与えていますか。


ハーディ:独裁政権下での物理的なダメージや個人レベルで受けた精神的ダメージは、多くの人が今も引きずっています。道徳や倫理も影響を受け、歪んでしまいました。当時は思想統制が敷かれていましたが、皆が心から信じていたわけではありません。公の場ではサダムを賛美しなければなりませんでしたが、私的な場ではそうではなかった。つまり非常に偽善的な社会になっていたのです。そうした歪みを完全に修復するには、たとえ安定した国であっても何十年もかかります。私たちの周辺地域には依然として紛争や暴力が多く存在しますし、完全に直すには少なくとも100年は掛かるのではないでしょうか。そのプロセスを早めるためには、政治的な安定はもちろんのこと、対話や様々な模索が必要です。


そこで役立つのがアートです。アートがもたらす恩恵は、対話を生み出す力であり、社会や私たち自身の鏡となりうること。そして、自分たちが傷つかない形で、客観的に自分たちの姿を見つめ直すことができる点にあります。


Q:まさにこの映画が、アートとして大きな役割を果たしたと思いますが、イラクでの観客の反応はどうでしたか。


ハーディ:圧倒されるくらいにポジティブで温かい反応でした。自分と同じく葛藤し苦しんだ経験を持つイラクの方々がそう反応してくれたことで、報われた気持ちになりました。あなたは「大きな役割を果たした」と言ってくださいましたが、本当はこういった映画が100本必要なんです。本作はまだその1本にすぎません。変化を起こすためのプレッシャーをこの1本だけに負わせたくはありませんが、少なくとも素晴らしい第一歩を踏み出せたという自負はあります。自分たちの歴史やストーリーには語る価値があると気づいた今、それらを物語や映画としてもっと作っていけたらと思っています。





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