大久保医師の声を生成AIで再現
Q:今回の事件では、SNSの投稿やDMなど文字情報が重要な素材になっています。それを映像化するために再現映像も使われていますが、林さんの部屋のシーンは実際の部屋で撮ったのでしょうか。
二村:いえ、違います。元の写真をもとに可能な限り再現したという形ですね。あの部屋を再現できる似た場所を探しました。林さんのご友人から、あの映像を見て「優里の部屋で撮ったの?」と聞かれたので、かなり再現度は高かったと思います。
Q:ALS患者の生活を映像で再現する上で、特に気をつけたことは何ですか。
二村:林さんの部屋の写真が残っていたので限りなく忠実に、医療器具などはすべて同じものを集め、撮影中は医療監修の方にずっとついてもらいました。林さんはこういうふうにツイートしているけれども、それを映像にする時にこういう撮り方をして齟齬がないか、ワンカットずつ全部確認してもらいました。

『京都ALS患者嘱託殺人事件』©『京都ALS患者嘱託殺人事件』製作委員会
Q:林さんの投稿を読み上げるのは俳優の田畑智子さんです。キャスティングにはどんな意図があったのでしょうか。
二村:まず、田畑さんが京都出身ということです。林さんも京都出身ですが、20代前半にアメリカに渡り、その後東京で暮らされていました。京都弁ネイティブだけれども暮らしは東京で、京都弁の微妙なイントネーションが残っている感じだったそうです。田畑さんも京都出身、活動のベースは東京で標準語を話されているので、そうした言葉のニュアンスが出せると思いました。あとはパーソナリティ的にも林さんはすごく気の強い方で、芯がしっかりした方だったとご友人が話されていました。そのイメージを表現できるのは田畑さんだと考えました。
Q:一方、大久保医師の声は生成AIで再現されていますね。
二村:当初は田畑さんと同じように役者さんに読んでもらうことも考えたんです。ただ大久保さんに面会してみて、彼が幼少期から積み重ねたものが多分に生き方に影響している印象を受けたんです。ほぼ目を合わせず下を向いてボソボソ喋る、自己肯定感が低く自分で自分のことを嗤うみたいなことをよくする。だから、お母さんの証言などから来る、彼のパーソナリティみたいなものを表現できないかと思いました。そこでAIで彼の声を生成してみたら、大久保さんが話している印象にかなり近いものが出来たんです。彼のパーソナリティみたいなものを、声の質感とか話し方とか、言葉のテンポみたいなものから感じてもらいたいと思い、AIを使いました。
Q:大久保医師とは拘置所で面会されていたんですね。
二村:面会しています。判決が出る前に拘置所で5回くらい。
Q:面会では音声は録音できないと思いますが、再現音声の元になる素材はあったのですか。
二村:幸いなことに、大久保さんの音声は残っていたものがあったので、それを元に作りました。