ポップソングを使うことで表現したもの
Q:林さんと大久保医師のDMのやり取りには、画面に吸い寄せられるような強い引力がありました。
二村:単純に大久保さんが主導していたわけでもなく、林さん自身も大久保さんを逃すまいとして会話を続けて、なんとか来てもらうように仕向けているのも見て取れる。そんな必死さみたいなものを感じました。関係性の綱引きみたいなところが、すごく面白いなと。そのやりとりが続いていって、最後に大久保さんが「この日に行けます」と言った時に、林さんからとっさに出た言葉が、「あの曲」の引用だったんです。林さんの心境をすごく表しているなと思いました。すごくポップだし、こんな軽やかな音楽が当時の林さんの中に鳴っていたんだということに、すごく発見がありました。まさに林さんが救われた心境を表している曲だったんです。

『京都ALS患者嘱託殺人事件』©『京都ALS患者嘱託殺人事件』製作委員会
Q:映画では、そのポップソングを実際に使っていますが非常に効果的だったと思います。作品自体は重いテーマですが、観客を思ってもみなかった地点へと導き、作品をエンターテインメントとして成立させている。私はシリアスなドキュメンタリーにもエンターテインメント性が必要だと思うのですが、二村監督はいかがですか。
二村:うーん……。あまり「エンタメ」という認識はなかったですが、題材に関心のある方に限らず、多くの人に観てもらいたいという思いはあります。だから、少なくとも普段の家の中では見られない、心を動かされるようなものを見せる必要はあるのかなと思います。
Q:社会的意義があるから観るべきだ、というだけでは多くの人には届かないので、観客に伝えるためのエンターテインメント性は大切だと思います。「エンタメ」の意味にもよりますが。
二村:そうですね。そういった意味では、映画館にかかっている他のフィクション映画も含めて、そこと戦っていかなきゃいけないとは思うので、同時代のエンタメ作品と伍していくような内容にしなきゃいけないなとは思います。