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『京都ALS患者嘱託殺人事件』二村真弘監督 「死にたい」という声の先で交錯した2人の人生を描く【Director’s Interview Vol.600】

『京都ALS患者嘱託殺人事件』二村真弘監督 「死にたい」という声の先で交錯した2人の人生を描く【Director’s Interview Vol.600】

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ドキュメンタリー映画『京都ALS患者嘱託殺人事件』は、報道や裁判で語られてきた事件像をいったん脇に置き、亡くなった林優里さんがSNSに残した言葉を丹念にたどる。さらに林さんとSNS上で親交のあった難病患者や医療・介護の関係者への取材を重ね、彼女の生前の暮らしや苦しみのディテールを詳細に描き出す。後半は一転、林さんに薬物を投与した大久保医師の生い立ちやその人柄を描いていく。なぜ2人は出会い、その行為は「嘱託殺人事件」として裁かれることになったのか。


監督は、和歌山毒物カレー事件を検証した『マミー』(24)で劇場映画デビューを果たした二村真弘。事件の核心となるDMのやり取りを後半に置いた構成から、再現映像、生成AIによる声の演出、そして編集まで、事件を描く際のこだわりを聞いた。


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2人が交わしたDMを見せるための映画



Q:映画後半での、林優里さんと大久保愉一医師のDMのやり取りが衝撃的でした。事件報道とは全く違う2人の関係性が見えてくる。映画全体の構成も、あのやり取りをどう見せるかというところから考えられたのでしょうか。


二村:まさにおっしゃる通りで、最初にDMを見た時、2人の関係性の機微みたいなものを感じました。林さんが安楽死を依頼し、それに応じた医師という単純なものではなく、あのDMの中では色々な心理戦も行われていました。あのやりとりをどう見せるかというところから編集は始まったんです。終着点はあそこにあると。ただその前に、2人の関係性やその人物像を見せなければいけない。あのDMを林さんが送らなければならなかった背景、Twitter(当時)を始めてから1年半ぐらいかかっていますが、その間に何があったのか。なぜ大久保という人物に頼らざるを得なかったのか。あのDMを見せるために、先にそうした疑問を解いていく構成になりました。


Q:亡くなった林さんは日々の思いをSNSに克明に残し、他の難病患者とも交流していました。そうした投稿は、彼女の心情を知る上で重要な要素になっていますね。


二村:林さんがSNSで投稿していた内容に、すごく心を動かされた部分がありました。単純にALS患者が自分の病気に対して自暴自棄になって、「死にたいんだ」「苦しいんだ」ということを訴えているだけではなく、一つの明確な意図を持って投稿を始めているんですよね。それは「告発」です。


彼女のような進行性の難病を抱えた患者さんたちが、耐え難い苦しみがあるにも関わらず、様々な医療的な制度などに助けを求めることができず、その中には「生きさせられている」という思いの人が少なからずいること。林さんはそうした難病を抱えていらっしゃる方たちと、コミュニティみたいなものをSNS上で築き、情報を共有しながら発信していた。これは構造的な問題であると思ったし、患者さんたちの訴えがなぜ聞き届けられていないのかと疑問を持ちました。


加えて、映画の中でも描いている、ヘルパーさんとの関係。本来であれば同性の方に介助をお願いしたいにも関わらず、人手不足だからそれが叶わない現実も知りました。あとは主治医との関係性の中で、「こういった医療はしてほしくない」といった要望が、本人の意思とは違う方向に進んでしまうという訴えがあると感じたんです。にも関わらず、そうした部分は裁判でほぼ顧みられることがなく、報道や判決でも「大久保という偏った思想を持った人物が犯してしまった事件であり、林さんはかわいそうな被害者なんだ」というような描かれ方をしている。そこに一番引っかかりを持ちました。



『京都ALS患者嘱託殺人事件』©『京都ALS患者嘱託殺人事件』製作委員会


Q:そもそも、この事件を取材しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。


二村:ある人から、「こういう事件の裁判があるから傍聴に行きませんか」と声をかけられたんです。当時は2024年で、映画『マミー』の上映が落ち着いた頃でした。先ほどのSNSの投稿を一通り読んだ上で裁判を傍聴しましたが、自分が読んだ林さんの言葉と裁判の中身にすごく齟齬を感じたので、取材するべきだと思ったし、亡くなった林さんの訴えていたことは社会が受け止めるべきテーマだと思いました。


Q:最初に興味を持ったのは大久保医師個人よりも、事件の構造と林さんの訴えだったわけですね。


二村:そうですね。ただ、大久保さんは裁判で判決を聞きながら泣いていたんです。それまでは冷酷な医師のイメージがあって、優生思想の持ち主で「社会的に意味のない人間は死んだ方がいい」という考えを持っていると。だから、まさかそんな風に感情的になる人とはイメージしていませんでした。違和感があったんですよね、「報じられている人と違うな」と。





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