描きたかったヒロイズムとは
Q:ロシア人の宿泊客はクセもあり、印象的な人物ですが、彼のようなキャラクターを映画に登場させた意図をお聞かせください。
アンソニー:このロシア人のキャラクターは、色んな方を複合的に混ぜて作ったキャラクターなんです。元特殊部隊の隊員という設定なのですが、事件のあった状況ではその経験を生かせなかったということを描きたかったのです。
実際に事件当日のホテルには、特殊訓練を受けた兵士たちが、クリケットの大会の警備のために宿泊していました。当然、ホテルは警備対象ではなく、あくまで宿泊のために滞在していたので、兵士といっても武装はしていません。そういう人たちがいたにも関わらず、事件が起きてしまうと、彼らは(武装していないこともあり)何も動けなかったんです。
特殊な訓練を受けた人がいたとしても、『ダイ・ハード』(88)のようなことは実際には起きないわけですね。銃を乱射する人が目の前にいると、それにどれだけ心情的に抑圧されて、何も出来ないかということがよく分かります。
私が本作で描きたかったヒロイズムというのは、銃を奪い取ったりとか、パンチを食らわすというのではなく、危機の時にお互いを助けたり、人を守るために自分が銃弾を受けたりするといったことなんです。
ホテルのシェフたちは、台所にあったお鍋やお盆などを、自分たちや宿泊客の服に防弾チョッキがわりに入れていたそうです。そういったヒロイズムというものを描きたかったんです。
Q:今後はどんな作品を手掛けていきたいですか。
アンソニー:関心があるのは、あまり知られていない人の人生に光をあてることですね。抽象的な言い方ですが、何か取り憑かれたように物事にのめり込んでいるような人、あるいは非常に困難なことを克服して帰還してきた、そういったストーリーや人物に惹かれますし、作品として取り上げてみたいですね。
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監督/脚本/編集:アンソニー・マラス
オーストラリア生まれ。2011年に監督、脚本、製作、編集を務めた1974年のトルコのキプロス侵攻を描いた短編映画『THE PALACE(原題)』(11)は、テルライド映画祭でプレミア上映され、世界20か国以上で数々の映画賞に輝く。また同作は、セザール賞よって、パリのユネスコ世界本部における短編映画ゴールデンナイトの上映作品6作に選ばれた。
本作が長編映画デビュー作となる『ホテル・ムンバイ』はトロント国際映画祭でワールドプレミア上映され、批評家、観客共に絶賛を得た。オーストラリアではアデレード映画祭でプレミア上映され、ライジングサン最優秀作品観客賞を受賞。
取材・文:香田史生
CINEMOREの編集部員兼ライター。映画のめざめは『グーニーズ』と『インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説』。最近のお気に入りは、黒澤明や小津安二郎など4Kデジタルリマスターのクラシック作品。
『ホテル・ムンバイ』
9月27日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国順次公開
配給:ギャガ
(c)2018 HOTEL MUMBAI PTY LTD, SCREEN AUSTRALIA, SOUTH AUSTRALIAN FILM CORPORATION, ADELAIDE FILM FESTIVAL AND SCREENWEST INC
映倫:R-15