2008年、インドの五つ星ホテルで起きた、世界を震撼させた無差別テロ。“銃”に“心”で立ち向かった、名もなき人々の感動の実話を映画化したのは、アンソニー・マラス監督。バラエティ誌による「2018年の注目すべき映画監督10人」に選ばれた新進気鋭のオーストラリア人監督だ。本作公開にあたり、監督に話を伺った。
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観客がその身を置くことができる。それが映画の力
Q:映画化にあたり、数ある題材(事件)の中から「ホテルムンバイ」を取り上げたきっかけを教えてください。
アンソニー:事件を取材した『サバイビング・ムンバイ』というドキュメンタリーを見たのがきっかけです。事件の生存者たちが経験した、生死を分ける状況、痛み、そして救済が、詳しく描かれていました。また、様々な人種や立場の人たちがお互いに助け合い、一丸となって生きようとしていたことが、非常に印象に残りました。ここにインスパイアされたのが大きいですね。
また、私の両親は難民で、まさに生死を分かつような経験をしており、私はその話を聞かされて育ちました。そういうこともあり、私自身、生死を分かつような話には反応しやすいのかもしれません。
Q:実際の事件を映画化する意義についてお聞かせください。
アンソニー:実際の事件の状況に、観客がその身を置くことができる。それが映画の力だと思っています。事実や背景を知りたいのであれば、本を読んでもいいし、ドキュメンタリーを見れば良いのですが、主観的な目線を伝えるのは、全ての表現手段の中で映画が一番力を持っていると考えています。
また、自分と違う人種や立場の人たちの目線を見せることができる。それが映画の力であり、本作を作った大きなモチーベションでもありました。
Q:若いテロリストたちをステレオタイプな悪者と捉えず、彼らの表情にもフォーカスしていたのは非常に印象的でした。
アンソニー:彼らがテロリストであることには疑いの余地はなく、銃という恐怖で人を震え上がらせているのは確かです。しかし、彼らも人間なのです。彼らの意図は何なのか、彼らにも恐怖心はあったのではないだろうか。
分かりやすい「悪者」を描くのは簡単なのですが、そうではなく、彼らは誰なのか、何が彼らをそうさせたのか、それを先に理解しなければと心がけました。