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穏やかで、寂しい。『人生はビギナーズ』に満ちた、マイク・ミルズ監督のまなざし

(c)Photofest / Getty Images

穏やかで、寂しい。『人生はビギナーズ』に満ちた、マイク・ミルズ監督のまなざし

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『人生はビギナーズ』あらすじ

38歳の独身であったオリバーは、母親が亡くなって5年が経ったある日、父親からゲイであることをカミングアウトされる。新たな恋人を見つけ人生を謳歌し始めた父親とは対照的に、あまりの衝撃的な事実に驚きを隠せないオリバー。そんな中、父親が末期がんであると判明し、懸命な治療の末に亡くなってしまう。それから数ヶ月後、オリバーはフランス人女優のアナと出会う。かつて人生最期の時を恋人と楽しんでいた父親と自分を重ね合わせるオリバー。一方、アナもまた父親への葛藤を抱えていた。


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作品自体が、マイク・ミルズという人物の“分身”



 奇妙な出来事に遭遇した。先日、吉祥寺の古書店の前を通りかかったときのことだ。店を通り過ぎた一瞬、ちくっとした痛みが走った。しばらく歩き続けていたが、どうも落ち着かない。何かを落としたのかと思い古書店の前に戻ると、店頭に鮮やかなイエローの本が飾ってあった。『人生はビギナーズ』(10)の劇中でも使用された、マイク・ミルズ監督のイラスト集「Drawings From the Film Beginners」だったのである。どうも彼とは、波長が合うというか、勝手な奇縁を感じてならない。


 映画ファンであれば、会ってもいないのに「この監督は“世界”に対する目線が同じだ」とシンパシーを抱いてしまう人物が、1人はいるのではないか。食べたものも見てきたものも全く異なるにもかかわらず、作品の端々に「わかる」があふれているような、特別な存在。自分にとっては、それがマイク・ミルズ監督なのである。


『人生はビギナーズ』(c)Photofest / Getty Images


 「監督」と紹介はしたものの、彼は映画監督というジャンルにとどまらないマルチクリエイターだ。ナイキやアディダスのCMや、MV、ビースティ・ボーイズ等のジャケットデザイン、ファッションブランド「X-girl」「マーク・ジェイコブズ」のデザイン……。その活動は多岐にわたる。彼自身、アート一家に生まれ、スケボーやバンドに熱中する少年時代を過ごしながら、自身もグラフィック・アーティストからデザイナーへとスライドしていったという。さらに、パートナーはアーティスト・映像作家・小説家のミランダ・ジュライと、ミルズそのものがアートが凝縮したような人だが、彼のアートワークを垣間見ると、不思議と柔らかなものが多い。


 八面六臂の活躍を見せながらも、繊細なものづくりを志向する人。立ち位置的には友人であるスパイク・ジョーンズに近い部分もある(ちなみに、ソフィア・コッポラとも旧知の仲)が、ミルズのパーソナリティはよりナイーブだ。それは、映画監督としての彼のフィルモグラフィを見ても明らか。


サムサッカー 17歳、フツーに心配な僕のミライ』(05)

『マイク・ミルズのうつの話』(07)

『人生はビギナーズ』(10)

20センチュリー・ウーマン』(16)


 ミルズが手掛けた作品は、一貫して静的であり、私的な雰囲気が漂う。かつ寡作であり、ほぼ全ての作品で脚本を兼任。本当に撮りたいモチーフが見つかったときに動く、作家主義的なクリエイターであることが見て取れる。現に、『人生はビギナーズ』と『20センチュリー・ウーマン』は、自身の父母をモデルにした(前者では父、後者では母を描いている)「彼が作ることに意味がある」作品であり、監督業をメインに据えたタイプとは、少々趣が異なる(ちなみに、『マイク・ミルズのうつの話』は、日本を舞台にしたドキュメンタリーだ)。


 そのため、彼の作品の魅力は、物語というよりもむしろ、彼の視線、呼吸、世界観に共鳴できるところにあるのかもしれない。作品自体が、マイク・ミルズという人物の“分身”に近い立ち位置なのだ。


 そして、そのカラーを決定づけたのが、長編第2作目の『人生はビギナーズ』である。




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