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穏やかで、寂しい。『人生はビギナーズ』に満ちた、マイク・ミルズ監督のまなざし

(c)Photofest / Getty Images

穏やかで、寂しい。『人生はビギナーズ』に満ちた、マイク・ミルズ監督のまなざし

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ミルズ監督ならではの「穏やかな孤独」



 『人生はビギナーズ』を深掘りするにあたって、彼の長編デビュー作である『サムサッカー 17歳、フツーに心配な僕のミライ』について少し振り返りたい。


 この映画は、オリジナル作品ではなくウォルター・キルンによる小説を映画化したもの。本作がミルズ監督との出会いだった筆者としては、10代独特の独りよがりな未成熟さを見事に綴じ込めた彼の手腕に魅せられたものだ。しかし、当時は映画の知識が何もない田舎の高校生だった自分が、どのようにしてメジャー作品ではない本作にたどり着いたのか、全く覚えていない。地元のレンタルビデオ店で手に取ったに違いないが、やはり当時からミルズ監督の作品に、抗いがたい魅力を感じていたのだろう。


 『サムサッカー 17歳、フツーに心配な僕のミライ』は、17歳になってもおしゃぶりの癖が治らない主人公を軸に、家族との関係や心の成長を描く物語(メンター的役割を演じたキアヌ・リーヴスの演技が素晴らしい)。本作で既にミルズ監督の“らしさ”は発揮されており、『人生はビギナーズ』でより研磨されていった印象だ。


 それは、静謐なトーンで紡がれる「穏やかな孤独」とでもいうべき質感。ミルズ監督のパーソナリティと密接に結びついており、2019年に制作されたアリシア・ヴィキャンデル主演の短編『I Am Easy To Find』に至るまで、どの作品にも共通する特徴でもある。



 ミルズ監督の作品には、往々にして泣いたり、叫んだりするようなキャラクターが少ない。『20センチュリー・ウーマン』に登場するアビー(グレタ・ガーウィグ)はパンキッシュな存在ではあるが、衝動を意識的に外に出す、一種のパフォーマンスとして動的な行為を行っており、本当の苦悩に対しては、静かに耐え忍んでいる。『サムサッカー 17歳、フツーに心配な僕のミライ』の主人公ジャスティン(ルー・プッチ)は、自意識が肥大したキャラクターであり、リアルなイタさを持った人物だが、部活動のディベートにのめり込む反面、内向的なキャラクターとして描かれる。


 『人生はビギナーズ』の主人公オリヴァー(ユアン・マクレガー)はその最たる例で、大勢の知人に囲まれたパーティに行っても、心の空白を埋められない。恋人のアナ(メラニー・ロラン)ともなかなか距離を詰めることができず、ゲイをカミングアウトした父ハル(クリストファー・プラマー)からは、将来を心配される。



 本作はミルズ監督の実体験が基になっており、オリヴァーは彼自身を投影したキャラクター。同じく、『20センチュリー・ウーマン』のジェイミー(ルーカス・ジェイド・ズマン)もそうだ。彼らは、作品の中で形容しがたい孤独や所在なさを抱えており、そこには「過去のトラウマ」だとか「ある事件の影響」だとか、明確な(それでいてフィクショナルな)理由はない。生来の“そういう人”として描かれる。つまり、ミルズ監督自身にも、少なからずそういった「孤独と生きる」要素はあるということだ。そう思って彼が手掛けた作品群(映画に限らず)を見渡してみると、冒頭に述べた「柔らかさ」や「呼吸」にたどり着くのである。


 マイク・ミルズ監督作品を観ていくにあたって、孤独は主人公の一種の“相棒”として、ずっとそばにいるということ。このエッセンスが、作品全体に落ち着きと清廉さをもたらす役割も担っている。




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