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穏やかで、寂しい。『人生はビギナーズ』に満ちた、マイク・ミルズ監督のまなざし

(c)Photofest / Getty Images

穏やかで、寂しい。『人生はビギナーズ』に満ちた、マイク・ミルズ監督のまなざし

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作品自体が、マイク・ミルズという人物の“分身”



 奇妙な出来事に遭遇した。先日、吉祥寺の古書店の前を通りかかったときのことだ。店を通り過ぎた一瞬、ちくっとした痛みが走った。しばらく歩き続けていたが、どうも落ち着かない。何かを落としたのかと思い古書店の前に戻ると、店頭に鮮やかなイエローの本が飾ってあった。『人生はビギナーズ』(10)の劇中でも使用された、マイク・ミルズ監督のイラスト集「Drawings From the Film Beginners」だったのである。どうも彼とは、波長が合うというか、勝手な奇縁を感じてならない。


 映画ファンであれば、会ってもいないのに「この監督は“世界”に対する目線が同じだ」とシンパシーを抱いてしまう人物が、1人はいるのではないか。食べたものも見てきたものも全く異なるにもかかわらず、作品の端々に「わかる」があふれているような、特別な存在。自分にとっては、それがマイク・ミルズ監督なのである。


(c)Photofest / Getty Images


 「監督」と紹介はしたものの、彼は映画監督というジャンルにとどまらないマルチクリエイターだ。ナイキやアディダスのCMや、MV、ビースティ・ボーイズ等のジャケットデザイン、ファッションブランド「X-girl」「マーク・ジェイコブズ」のデザイン……。その活動は多岐にわたる。彼自身、アート一家に生まれ、スケボーやバンドに熱中する少年時代を過ごしながら、自身もグラフィック・アーティストからデザイナーへとスライドしていったという。さらに、パートナーはアーティスト・映像作家・小説家のミランダ・ジュライと、ミルズそのものがアートが凝縮したような人だが、彼のアートワークを垣間見ると、不思議と柔らかなものが多い。


 八面六臂の活躍を見せながらも、繊細なものづくりを志向する人。立ち位置的には友人であるスパイク・ジョーンズに近い部分もある(ちなみに、ソフィア・コッポラとも旧知の仲)が、ミルズのパーソナリティはよりナイーブだ。それは、映画監督としての彼のフィルモグラフィを見ても明らか。


サムサッカー 17歳、フツーに心配な僕のミライ』(05)

『マイク・ミルズのうつの話』(07)

『人生はビギナーズ』(10)

20センチュリー・ウーマン』(16)


 ミルズが手掛けた作品は、一貫して静的であり、私的な雰囲気が漂う。かつ寡作であり、ほぼ全ての作品で脚本を兼任。本当に撮りたいモチーフが見つかったときに動く、作家主義的なクリエイターであることが見て取れる。現に、『人生はビギナーズ』と『20センチュリー・ウーマン』は、自身の父母をモデルにした(前者では父、後者では母を描いている)「彼が作ることに意味がある」作品であり、監督業をメインに据えたタイプとは、少々趣が異なる(ちなみに、『マイク・ミルズのうつの話』は、日本を舞台にしたドキュメンタリーだ)。


 そのため、彼の作品の魅力は、物語というよりもむしろ、彼の視線、呼吸、世界観に共鳴できるところにあるのかもしれない。作品自体が、マイク・ミルズという人物の“分身”に近い立ち位置なのだ。


 そして、そのカラーを決定づけたのが、長編第2作目の『人生はビギナーズ』である。




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