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『アビス』の映画史的意義。それは“ジェームズ・キャメロンとCGの邂逅”

(c)Photofest / Getty Images

『アビス』の映画史的意義。それは“ジェームズ・キャメロンとCGの邂逅”

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CGムーヴメントの先駆的作品



 『アビス』劇場版は興行的には振るわなかったものの、CGを含む視覚効果は高く評価され、第62回アカデミー賞で視覚効果賞を受賞した。キャメロンはILMから見せられたCGの表現力を目の当たりにし、可能性を信じ、大きな賭けに勝った。何より大きかったのは、デニス・ミューレンが率いるILMのCGチームと信頼関係を構築できたことだろう。


 キャメロンは次作『ターミネーター2』(91)を構想するにあたり、『アビス』の偽足を描くのに使ったCGをさらに効果的に活用できるキャラクター、液体金属製の敵ヒューマノイド「T1000」を思いつく。同作のCG制作を引き続き託されたILMは、キャメロンから次々に発せられる高い要求に応え、同社が『ウィロー』(88)のために開発したモーフィングという技術も応用し、さまざまな人間やナイフと床のような無機物にまでなめらかに変化して擬態するT1000の視覚効果を完成させる。


『ターミネーター2 3D』予告


 大ヒット作となった『ターミネーター2』でのT1000の描写は、観客を驚かせたのはもちろん、トップクラスの監督たちにもCGの可能性を確信させるに足るものだった。ILMがCGを担当した作品は『ターミネーター2』に続き、ロバート・ゼメキスの『永遠に美しく…』(92)、スピルバーグの『ジュラシック・パーク』(93)と3年連続でアカデミー視覚効果賞を獲得。いわば、CGムーヴメントとでも言うべき状況を映画業界にもたらした。


 娯楽映画の分野でCGが普及していくうえで大きなインパクトをもたらしたのは『ターミネーター2』だが、キャメロンがCGの可能性を最初に確信したのは、この『アビス』だった。現在から振り返るなら、キャメロンがILMのCGに出会い、CG導入に踏み切ったことは、のちの映画史を変える重要な出来事だった。『ターミネーター2』はCGムーヴメントを巻き起こしたが、そうしたムーヴメントの先駆的作品として『アビス』を位置づけることができるだろう。



【参考】

DVD『アビス 完全版』 20世紀フォックス・ホーム・エンターテイメント・ジャパン

『ジェームズ・キャメロン 世界の終わりから未来を見つめる男』レベッカ・キーガン著 吉田俊太郎・訳 フィルムアート社

『ジェームズ・キャメロンの映像力学』高橋良平・著 ビクター音楽産業



文: 高森郁哉(たかもり いくや)

フリーランスのライター、英日翻訳者。主にウェブ媒体で映画評やコラムの寄稿、ニュース記事の翻訳を行う。訳書に『「スター・ウォーズ」を科学する―徹底検証! フォースの正体から銀河間旅行まで』(マーク・ブレイク&ジョン・チェイス著、化学同人刊)ほか。



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