2019.10.18
第二次世界大戦を経験したヴァーホーヴェンの戦闘描写へのこだわり
オランダ出身のヴァーホーヴェンはナチス支配下の母国で幼少期を過ごし、不自由な暮らしの中で実際に第二次世界大戦を目の当たりにしてきた。言うまでもなく、彼にとってナチスは忌み嫌うべきものだ。クライマックスの宇宙船の破壊シーンでは、子どもの頃にヴァーホーヴェンが夜空に見た花火のような爆撃の風景を反映しているとのこと。また、後半でカールが着る軍服はナチス高官のそれをモデルにして作られた。
最前線の戦闘シーンは、とにかく生々しいが、最初に衝撃をあたえるのはジョニーらが初めてバグズの惑星に到着する場面だろう。着いていきなりバグズと交戦するこの場面は、第二次世界大戦時に撮られたノルマンディー上陸作戦の記録映像をヒントにしているとのこと。『プライベート・ライアン』(98)の冒頭で再現された、あの壮絶な戦場である。この他、『特攻大作戦』(67)『遥かなる戦場』(68)『ボー・ジェスト』(39)などの戦争映画が、本作の戦闘シーンにインスピレーションをあたえた。
しかし、戦闘描写におけるMVPは、なんといってもバグズを作り出した視覚効果担当のフィル・ティペットだ。それまでの映画における異星生物は、暗闇の中、単体で瞬間的に姿を見せるのが当たり前で、そこには不自然な作り物であることがバレないようにするという配慮もあった。しかし、ティペットはここで、白昼、大量のバグズが蠢き、人類に攻撃を仕掛けるという、とてつもない見せ場を作り出す。『ジュラシック・パーク』で開発したコンピューター・システムをさらに発展させたことにより、それが可能になったのだ。
バグズの鋭利な触手が人体を貫く。腕や脚がちぎられる。R指定の理由となった描写は、確かに苛烈だ。しかしヴァーホーヴェンは残虐性を自主規制しない監督である。母国オランダで撮った初期作品はもちろん、ハリウッド進出後の『ロボコップ』や『氷の微笑』でもバイオレンスを容赦なくビジュアルにしてみせた。時として過剰だが、それは言うまでもなく描くべき暴力だった。戦闘というクレイジーな事態の中で、それが激しくなるのは当然ではないか。