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『スターシップ・トゥルーパーズ』物議を醸したSF戦争アクションが伝えたものとは?

(c)Photofest / Getty Images

『スターシップ・トゥルーパーズ』物議を醸したSF戦争アクションが伝えたものとは?

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ファシズム礼賛か!? 見過ごされがちなシニカルなまなざし



 ジョニーやカルメンらは後に戦士となるが、それでも序盤の彼らはまだ高校生だ。アメフトのような近未来の競技で活躍するジョニーは学園の人気者であり、その恋人カルメンはマジメな性格だが、他の男性との出会いにも心をときめかせることも。ジョニーのクラスメイトで競技のチームメイトでもある男勝りの女子ディジーはジョニーに恋をしているが、報われそうにない。


 ジョニーの友人である理系男子カールは超能力の資質があり、それを活かす軍の部署に進みたいと考えていた。ハイスクール最後のイベント、プロムまでは、彼らが織りなす青春ドラマが主体だ。しかし、彼らに簡単には感情移入できないのは、先に述べた環境の下で育ったことにより、ファシズム的な思想に洗脳されているからだ。ジョニーらは当然のように、自主的に戦場へと向かう。


 脚本を手がけたエド・ニューマイヤーは、この映画を戦記高揚映画のパロディ作品であると語る。ファシズムに染まり、軍に命を捧げようとする若者の姿を、リアリズムを排除し、劇画のようなタッチで、かなり極端な描写をしている。



『スターシップ・トゥルーパーズ』(c)Photofest / Getty Images 


 物語の合間にしばし挿入される、軍のプロパガンダ映像はその典型で、子どもたちがバグズに見立てた昆虫を踏みつぶし、それを母親が嬉々として応援する、銃の使用を子どもに進める……というような、ブラックなユーモアを含んだ場面には思わず笑ってしまう。ちなみにディズニーは第二次世界大戦中、アメリカ国内に向けた戦意高揚映画を多数手がけていた。


 しかし、一部の観客はそんなユーモアを理解できなかった。アメリカの有力な日刊紙のひとつ、ワシントンポストはヴァーホーベンをネオナチと罵り、本作を極右的な映画と決めつけた。ファシズムを礼賛する映画という非難の声も上がった。ジョニーが困難を乗り越えて、最後には戦争の英雄になる、そんなストーリーだから誤解されるのは、ある意味仕方がない。


 ではなぜバカバカしいまでの軍のプロパガンダ映像が、随所に挿入されているのか? もちろん観客に物語を客観視させるためだが、その点は怒りに目の曇った観客には見過ごされてしまったようだ。


 本作の公開時、宣伝のために来日したヴァーホーヴェンに取材をしたが、彼は「この映画にはブレヒト的なユーモアがある」と語っていた。ブレヒトとは「三文オペラ」で知られるドイツの戯曲作家ベルトルト・ブレヒトのことで、感情移入を否定し、客観的に見る演劇を推奨した革命的な劇作家だ。


 『スターシップ・トゥルーパーズ』もそういう目線で見るべきであり、感情移入するのではなく、ジョニーや仲間たちを、じっくり見極めなければならないのだ。ヴァーホーヴェンはまた、DVDの音声解説で、こうも語っている。「この映画はストレートな娯楽作とは呼べない」。



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