2019.10.18
監督も全裸に!? シャワーシーン撮影時の真実とは?
先に述べたように、『スターシップ・トゥルーパーズ』で描かれる社会はファシズムによって支配された悪しき世界だが、唯一の理想的な要素といえるのが、完全な男女同権が実現していることだ。女性も望めば、そして適性や能力が優れていれば、兵士になれるし、実際に多くの女性兵士がそこには存在する。
ヒロイン、カルメンはパイロットとしての優れた資質を認められ、新人ながら戦艦の操縦を任される。また、地球連邦軍の新任の最高司令官は女性(しかも黒人)だ。極右の中のリベラルという、とてもユニークな状況が、ここでは出来上がっている。
それを象徴するシーンのひとつとして、軍の訓練校のシャワー室の場面がある。ここでは男子と女子が共通のシャワー室を使っており、当たり前のように誰もが裸になっている。さて、このシーンの撮影に関しては有名な伝説がある。恥ずかしがっている若い役者たちを叱咤すべく、ヴァーホーヴェンも撮影監督とともに全裸になった……というエピソードだ。
DVDの音声解説によるとヴァーホーヴェンとニューマイヤーの記憶は食い違っていて、ニューマイヤーは途中まで脱いで止めたのでは? と語っていたるが、ヴァーホーヴェンは全部脱いだと証言している。ちなみに、ジョニー役のキャスパー・ヴァン・ディーンに取材した際に尋ねてみたが、彼によると「監督が脱いだのはスボンだけだ。”もう、いいですよ、見たくないから”と僕らが止めたんだ(笑)」とのことだった。
『スターシップ・トゥルーパーズ』(c)Photofest / Getty Images
1億ドル以上の巨費を投じて製作された『スターシップ・トゥルーパーズ』は、残念ながらその半分ほどの5千4百万ドルの全米興収を上げるにとどまり、興行的には失敗作となみされる。悪評の影響は確かにあったかもしれない。とはいえ、現在もファンの熱烈な支持を受けており、低予算製作ではあるがシリーズ化もなされた。
かのクエンティン・タランティーノは、同作の上映会を開催したほどの大ファンだという。ヴァン・ディーンによると、初めて会ったときのタランティーノはこの映画がいかに素晴らしいかを3時間にわたって延々とまくしたてたというからクレイジーではないか。
しかし、誰よりもクレイジーなのはヴァーホーヴェンだ。若い役者の前で全裸になろうとした意気もさることながら、彼に取材した際に、ひとつ印象に残っていることも付け加えておきたい。ヴァーホーヴェンは、ひとつひとつの質問に対して、つねに真剣に、猛烈な勢いで延々と返答してくるのだ。おかげで制限時間内には訊きたかった質問の半分も訊けなかったが、それでもこの監督の中にある、とてつもないエネルギーを感じることができた。
『スターシップ・トゥルーパーズ』は、そんな彼の作家性や人間性が、暴発するほどの勢いであふれ出た作品と言えるだろう。
文: 相馬学
情報誌編集を経てフリーライターに。『SCREEN』『DVD&動画配信でーた』『シネマスクエア』等の雑誌や、劇場用パンフレット、映画サイト「シネマトゥデイ」などで記事やレビューを執筆。スターチャンネル「GO!シアター」に出演中。趣味でクラブイベントを主宰。
(c)Photofest / Getty Images