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『ハード・デイズ・ナイト』ジューク・ボックス・ミュージカルの“市民ケーン”と評された、ミュージックビデオの原点

(c)Bruce & Martha Karsh

『ハード・デイズ・ナイト』ジューク・ボックス・ミュージカルの“市民ケーン”と評された、ミュージックビデオの原点

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リチャード・レスター監督の斬新な映像とユーモア感覚



 リチャード・レスターが、当時、敬愛していたのは、フランソワ・トリュフォーのようなフランスのヌーヴェル・バーグ系の監督だった。また、バスター・キートンのようなサイレント時代のハリウッドのコメディにも興味があった。そこで監督作にはこうした映画の感覚が取り入れられている。


 描かれるのはビートルズ自身の日常生活である。ビートルマニアと呼ばれるファンたちに追いかけられながら列車や車で移動し、テレビ局の音楽番組に出演する。そこにはポールのいたずら好きの祖父(ウィルフレッド・ブランビル)も同行して、その場をひっかきまわす。部屋にこもりきりの4人は日ごろの不満が爆発して、ビルの外に飛び出す。


 そこで歌われるのは『キャント・バイ・ミー・ラブ』。4人が飛んだり跳ねたりする姿がスピーディな映像で描かれ、この映画でも特に印象的な場面となっている。ジョンは階段を通りすぎた女性に「あの人に似ているわ」と言われ、それを否定する場面にもユーモアがにじむ。また、「あなたはMOD(モッズ)ですか? それともROCKER(ロッカー)?」と、記者に尋ねられたリンゴが「僕はMOCKER(モッカ―、ひやかし屋)」と答えるところも名場面として知られる。ジョージが芸能プロダクションとおぼしき事務所に迷い込み、ユーモアたっぷりに事務所の人間たちに返答する場面も笑いを誘う。



 レスター監督は「プレスリー映画にはいつも恋愛対象となる女性がいたが、この映画の4人はそれぞれがひとりでそこにいるので、ファンとしては彼らにつながりを感じやすいだろう」とあるインタビューで答えているが、4人の日常生活を誇張して、時にシュールなユーモアもまじえながら、それぞれの個性をうまく浮かび上がらせる。祖父の面倒を見る気のいいポール、皮肉屋のジョン、ひょうひょうとしたジョージ、とぼけたリンゴ。そのキャラクターを楽しめる構成だ。


 駅の列車や車の前でビートルマニアに追いかけられる場面はものすごくリアルだが、本物のファンの姿をそのまま取り入れて撮影することで臨場感が生まれている。


 そんなファンに追いかけられていたリンゴが、外に飛び出して、帽子とコートで扮装して人前に出るとひどい罵声を浴びせかけれ、(ビートルズであることがばれずに)うれしそうな顔をする場面など、ビートルマニア現象を逆手にとった場面となっている。


 この映画のリンゴは本当に味のある演技を見せていて、後に俳優として活躍したのも納得できる(ブラック・コメディ『マジック・クリスチャン』(69)ではレスターとも縁の深いコメディアン、ピーター・セラーズと共演している)。


 後半、メンバーたちが警官たちとチェイス場面を演じるとサイレント映画のような軽快な笑いが生まれる。



(c)Bruce & Martha Karsh


 「テル・ミー・ホワイ」や「恋におちたら」等の曲が聞ける、テレビ局での演奏シーンも最高に盛り上がるが、カメラアングルが独特で、ギターを弾く後ろ姿を肩越しでとらえたり、歌う口や演奏する手のアップなどを入れたり、さまざまな角度から演奏風景が切り取られる。音楽の呼吸をよく知っている監督だからこそ作れる映像だろう。


 映画の大半のシーンは英国のトゥイッケナム・スタジオで撮影されているが、終盤の演奏シーンはスカラシアターで6台のカメラを使って撮影されたという。



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