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『ボーン・アイデンティティー』ボーン以前・以後と流れを変えた、リアルかつストイックなスパイ映画の革命

(c)Photofest / Getty Images

『ボーン・アイデンティティー』ボーン以前・以後と流れを変えた、リアルかつストイックなスパイ映画の革命

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原作者の信頼を勝ち取るためのミッション



 すべての発端は90年代半ば、飛行機の搭乗前に書店で面白そうな新刊本を見つけられなかったダグ・リーマンが、仕方なく一度読んだことのあるロバート・ラドラム著「暗殺者」(原題:The Bourne Identity)に手を伸ばしたことにあった。本作に触れるのは高校生の時以来だ。「そうそう!この感じ!」。ページをめくる彼の胸中にはすぐさまあの頃の興奮が蘇ってきた。読者を寸分も飽きさせない本作の筆致は今読んでもやっぱりスゴい。そして何と言ってもこの主人公は圧倒的に魅力的だ————。ちょっと待てよ・・・これを映画化したら面白いんじゃないか!?


 しかし、当時の彼は『スウィンガーズ』(96)のヒットで脚光を浴びてはいたものの、ハリウッド大作を手がけた経験はゼロ。そんな経験値で映画化権を獲得するには、何よりもまず作者の懐に飛び込んで信頼を勝ち取るしかない。ここからリーマン持ち前のフットワークの軽さが物を言う。


 彼はさっそく原作者ロバート・ラドラムと直接会う機会を取り付け、直談判することに。ここから数日間、ラドラム家に滞在するうちに、両者はすっかり意気投合。最終的にラドラムも「ここはひとつ、この若造に賭けてみるか」という気持ちを固めるのだった。



(C) 2002 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.


 興味深いのは、これほどまでして作者の信頼を勝ち取りながら、いざダグ・リーマンが練り始めた内容はというと、原作と大幅に異なるものだったということだ。


 試しに私も原作を紐解いてみたところ、なるほど、「海上で発見された記憶喪失の男が自分の素性を手繰り寄せていく」という本質は同じものの、物語の中身や構成、ディテールはまるで異なる。よくぞ作者はこの内容でOKしたものだと感心するほどだ。


 実はロバート・ラドラム、40歳を過ぎて遅咲き作家デビューするまでは、俳優として舞台に立ち、劇場経営に携わっていたこともある生粋のエンタテインメント界の人間だった。それゆえ小説と映画、あるいは舞台の違い、ひいては物語を現代版へとリニューアルする際の「産みの苦しみ」に至るまで、誰よりも深い理解を持っていたのは想像に難くない。



(C) 2002 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.


 彼は大胆な脚色にも寛容で、必要に応じて適時アドバイスを与えながら、温かい目でダグ・リーマンの映画作りを見守ってくれたそうだ。それゆえリーマンも原作にリスペクトを払いつつ、のびのびとやれた。


 そんな懐深い“ボーン”シリーズの創始者ロバート・ラドラムは2001年3月、本作の完成を待たずに、この世を去った。映画版の圧倒的なクオリティを受けて、天国のラドラムもきっと「あの若造、やってくれた!」と満面の笑みで祝福してくれたのではないだろうか。



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