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『ボーン・アイデンティティー』ボーン以前・以後と流れを変えた、リアルかつストイックなスパイ映画の革命

(c)Photofest / Getty Images

『ボーン・アイデンティティー』ボーン以前・以後と流れを変えた、リアルかつストイックなスパイ映画の革命

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ダグ・リーマンの父は有名事件の捜査にあたった検察官



 それでは、原作と大幅に異なる映画『ボーン・アイデンティティー』は、どのような手法で独自のディテールを培っていったのか。そこにはトニー・ギルロイという類稀なる脚本家の功績もあるのだが、もう一つ、あまり知られていない背景がある。それはダグ・リーマンの父親に関することだ。


 彼の名はアーサー・L・リーマン。80年代のレーガン政権下のアメリカを揺るがした「イラン・コントラ事件」を調査した特別検察官として有名な人で、のちに回顧録も執筆している。


 この事件を簡単に説明すると、「アメリカ政府が国交断絶下にあったイランに対して、秘密裏に兵器を売り、そこで得た売上金を、共産化を防ぐ目的で南米の反政府ゲリラへ提供していた」というもの。つまり政府の中枢にて世界を欺くような行為が組織ぐるみで行われていた一大スキャンダルなのである。



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 ダグ・リーマンはかねてより父に事件の話をよく聞かされて育ってきた。そしてちょうどダグが『ボーン』の構想を練り始めた97年ごろに、父アーサーは死去。おそらくこの時、父の遺したものに改めて深く向き合う機会を得たのではないだろうか。


 こういった流れの中で、彼は父の遺したエッセンスこそが映画版『ボーン』にある種のリアリティをもたらす重要な鍵となりうると確信する。原作には一切登場しない「トレッドストーン」はこのようにして、父から聞かされた話や回顧録に様々なインスピレーションを受ける形でその生々しい実態を浮かび上がらせていったのだ。


 中でもクリス・クーパーが演じた役柄は、イラン・コントラ事件の重要参考人として父アーサーが法廷尋問した人物、オリバー・ノース中佐をモデルとしているという。他にも、回顧録で詳述された内容は多岐に及ぶ。組織内の官僚主義的なあり方、オペレーションルームの空気感、人物描写や指示系統に至るまで、あらゆる要素が『ボーン』に影響をもたらしたそうだ。



 その後、ダグ・リーマンは『フェア・ゲーム』(10)などの社会派の題材を手がけることも多く、さらにトム・クルーズと組んだ『バリー・シール/アメリカをはめた男』(17)では、イラン・コントラ事件を別角度から描く荒業をやってのけた。どうやらこれらの「権力の不正に切り込む」というテーマは、彼にとって人生を賭けた戦いでもあるらしい。父の意志を全く別の形で受け継ぎ、彼はなおも走り続けているのである。



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