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『ボーン・アイデンティティー』ボーン以前・以後と流れを変えた、リアルかつストイックなスパイ映画の革命

(c)Photofest / Getty Images

『ボーン・アイデンティティー』ボーン以前・以後と流れを変えた、リアルかつストイックなスパイ映画の革命

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9.11テロはどのような影響を与えたのか?



 父親の影響もあり、ダグ・リーマンはアメリカ政府が世界各地で展開する機密性の高いオペレーションにずっと前から懸念を抱いていたという。そんな彼が手がけるスパイ・アクションだからこそ、自ずと広い視野を持ち、作風もリアルで硬派なテイストとなるのは当然のこと。それは90年代後半から2000年にかけての、ド派手なハリウッド映画の潮流からすれば、かなりの異端派だったことは否めない。が、この状況が、やがて一つの出来事を境に激変するのである。


 本作が撮影開始を迎えたのが2000年10月であり、最初の関係者試写を行ったのが翌年8月ごろと言われる。当初は、後半に登場する「農場での一騎打ちアクション」がハイライトとなるはずだった。しかし、その映像を観たスタジオ首脳陣からは「最後にもうひと盛り上がり欲しい」という意見が出され、例えば大爆発の起こるようなカタルシス感が必要なのではないかと真剣に話し合われたこともあった。だが、何よりも9.11が発生したことによってそんなアイディアはすぐさま消し飛んだ。



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 代わりに追加撮影されたのは、今となっては伝説となった「螺旋階段アクション」と、そこに至るまでのクリス・クーパーを追い詰めていくファイナル・シークエンス。いずれも低温火傷しそうなほどのリアルな視点を貫いたものばかりだ。さらに映画の本筋が9.11以降の観客の求めるものと合わなくなった場合に備えて、保険となる数シーンも撮影された(これらは使わずに済んだという)。


 結果的に、かつては異端派だった本作も、ようやく公開を迎える頃(当初は2001年9月だったが、追加撮影のため2002年6月へ後退)にはすっかり「人々が求めるリアルかつストイックな映画」へと様変わりを遂げていた。『ボーン』が変わったのではない。世界が変わったのだ。



 例えば、同年に公開された別のスパイ・ムービー、『007 ダイ・アナザー・デイ』は、当時としては流れに逆行する映画だったと言わざるをえない。案の定、ピアース・ブロスナンとはこれでお別れとなり、2006年に『カジノ・ロワイヤル』が公開された時には、以前の作風とは決別し、『ボーン』を彷彿する硬派でリアルな路線へとすっかり様変わりを遂げていた。同じことは『ミッション:インポッシブル』の2作目と3作目の違いにも言えるだろう。


 こういった状況を鑑みても、『ボーン・アイデンティティー』の存在感はやはり抜きん出ている。何が正解なのかわからない激変する世界の中で、本作はその時その時のタイミングを逸することなく、独自のペースで決断を重ね、的確な答えを導き出した。まさしく生まれるべくして生まれた「潮の変わり目」の一作だったのである。



文: 牛津厚信 USHIZU ATSUNOBU

1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンII』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。



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作品情報を見る





『ボーン・アイデンティティー』

4K ULTRA HD + Blu-rayセット: 1,429 円+税

発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

(C) 2002 UNIVERSAL STUDIOS. ALL RIGHTS RESERVED.

※ 2019 年11月の情報です。


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