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『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』永遠に“再発見”され続けて欲しい、北欧スウェーデンが生んだ思春期映画の史上屈指の名作

(c)Photofest / Getty Images

『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』永遠に“再発見”され続けて欲しい、北欧スウェーデンが生んだ思春期映画の史上屈指の名作

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牧歌的な作品世界の中に込められた「性(セックス)と死(デス)」



 そしてイングマルにとって大切な出会いの相手となる魅力的なヒロインが、サガ(メリンダ・キンナマン)だ。サッカーとボクシングに興じるその姿は、一見ハンサムで活発な男の子。ただ実は女の子で、胸が膨れ始めていることを気にしている。いよいよ第二次性徴が始まり、未分化な状態からカラダもココロも一歩踏み出す時。否応なく迫る自身の変化に戸惑いつつ無防備に振る舞うサガちゃんに、イングマルはあらゆる局面でドキドキする。


 ずっとこの日々が続けばいいのに。だが一方では残酷な現実が着実に歩みを進めている。いつしかこの世を去っていたママ。そして愛犬シッカンも――。


 この映画のベースとなるトーンは少年が初めての試練として迎える喪失感であり、それを乗り越えることが主題であり課題となる。また日本の一般的なジュブナイル系作品に比べると、性的な要素や描写が圧倒的に多い。スウェーデンは早い時期からの性教育の先進国として有名だが、あくまで明るく大らかなノリであるところに成熟したお国柄を感じさせる。


 ともあれノスタルジックで瑞々しい、のどかで牧歌的な作品世界の中、「性(セックス)と死(デス)」が重要なスパイスとなっていることは見逃せない点だ。だからこそ表面的な綺麗事ではない、奥行きのある珠玉作として普遍性を獲得しているのだと思う。


 この北欧から生まれた『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』は当時世界中で評判を呼び、米ゴールデングローブ賞(第45回)で外国映画賞を受賞。さらにアカデミー賞(第60回)では監督賞と脚色賞にノミネート。結果受賞は逃がしたが(両部門とも受賞したのはベルナルド・ベルトルッチ監督の『ラストエンペラー』だった)、ラッセ・ハルストレムの名は一躍世界に轟くことになる。


『ギルバート・グレイプ』予告


 本作に続き、ハルストレムは地元スウェーデンでアストリッド・リンドグレーンの児童文学を詩的に映画化した『やかまし村の子どもたち』『やかまし村の春・夏・秋・冬』(共に1986年)を撮り、ハリウッドに招かれる。その進出第一作『ワンス・アラウンド』(91)は凡庸な出来に終わったが、若き日のジョニー・デップとレオナルド・ディカプリオが兄弟役を演じた『ギルバート・グレイプ』(93)は新たな代表作に。これもまた田舎の生活(舞台はアイオワ州エンドーラ)を詩情豊かに描きつつ、死や生き難さ、障碍や偏見などあらゆる人生の困難をアコースティックな手ざわりで優しく包み込む。


 当時19歳のディカプリオはアカデミー助演男優賞にノミネート。ジュリエット・ルイス演じるベリーショートの美少女ベッキーは、どこかサガちゃんを延長したイメージのある素敵なヒロイン像だ。


 いま思い返しても、このスウェーデンからハリウッドに渡った端境期のラッセ・ハルストレムは神懸かっていたと思う。一生の宝物になる傑作を続けて残してくれた。ぜひ最近の「犬の映画」でハルストレムの名を知った人は、『マイライフ・アズ・ア・ドッグ』でこの名匠の真骨頂を味わって欲しい。



文: 森直人(もり・なおと)

映画評論家、ライター。1971年和歌山生まれ。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』(フィルムアート社)、編著に『ゼロ年代+の映画』(河出書房新社)ほか。「週刊文春」「朝日新聞」「TV Bros.」「メンズノンノ」「キネマ旬報」「映画秘宝」「シネマトゥデイ」などで定期的に執筆中。



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