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『アメリカン・ビューティー』我々は当たり前に狂っている――「普通」の定義をかき消す、不条理ホームドラマ

(c)Photofest / Getty Images

『アメリカン・ビューティー』我々は当たり前に狂っている――「普通」の定義をかき消す、不条理ホームドラマ

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冒頭で自ら「結末をバラす」不条理演出



 『アメリカン・ビューティー』の舞台は、現代のアメリカ・シカゴ。広告代理店に勤めるレスター・バーナム(ケヴィン・スペイシー)、不動産業を営む妻のキャロライン(アネット・ベニング)、娘のジェーン(ソーラ・バーチ)は、傍目に見れば幸せな家族だ。しかし、彼らは本音を互いにさらすことなく、それぞれが孤立した日々を送っている。劇中のレスターの言葉を借りるなら「僕らは普通の人間というインチキCM」状態だ。


 しかし、諦念にまみれた生活に変化が訪れる。レスターが、ジェーンの親友アンジェラ(ミーナ・スヴァーリ)に一目ぼれしてしまったのだ。その日を境に、彼の生活は妄想と現実が入り混じり、レスターはアンジェラを振り向かせようと暴走していく……。



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 映画は、かろうじて家族の形を保っていた3人の関係が崩壊する様子を、ただただ無気力に「傍観」し、決して共感を促すことはない。カタルシスも皆無で、なんなら冒頭1〜2分で「1年経たぬうちに僕は死ぬ」と結末をバラしてしまう。観る者の心に嫌悪感が広がっていく構造だ。実際、出演者のクリス・クーパーは当初、ネガティブなストーリーを受け入れられず、出演を渋っていたという(妻の勧めで出演を決めたそうだ)。


 家族映画の中でも異端の存在で、救いも慈愛もない。後味も最悪だ。ただ、いやらしいことに、とてつもなくクオリティが高い。娘が父親の殺人依頼をするショッキングなファーストカットから、後にエポック・メイキングな一作『007/スカイフォール』(12)を創り上げるサム・メンデス監督の鋭利で狡猾な観察眼と演出術が際立っている。



 メンデス監督は舞台演出家としてローレンス・オリヴィエ賞を受賞するなど華々しいキャリアを積み、本作で映画監督デビュー。いきなりオスカーを手にした、まさに傑物だ。ちなみに、メンデスを監督に推した1人は、彼の舞台を観劇して感銘を受けたというスティーヴン・スピルバーグ。彼が率いる製作会社ドリームワークスが、プロダクションを務めている(夢も何もない映画にもかかわらず、ドリームワークスのロゴから始まるのが実に皮肉だ)。


 内容が内容だけに「面白い」と評するのが憚られるが、受賞歴を見るまでもなく稀代の傑作であるというねじれた現実。この実態自体が、作品が内包する「病んだ普通」を示しているようだ。ミヒャエル・ハンケ監督やトッド・ソロンズ監督のように「皮肉」や「毒」、ラース・フォン・トリアー監督のように「鬱」を意識的に入れ込んだ作風であれば、こちらも準備をして臨めるのだが、それすら許されない。


 本作は、冒頭のセルフネタバレに始まり、全てを「起こるべくして起こること」として描いている。どこか寓話的、サミュエル・ベケットの不条理演劇のようなこの肌感覚は、メンデス監督の特徴的な個性といえよう。



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