タランティーノが参加したって本当?
さらに驚くべきことに、本作には奇才クエンティン・タランティーノもノークレジットで参加している。当時の彼は『レザボア・ドッグス』や『パルプ・フィクション』などの監督作、『トゥルー・ロマンス』や『ナチュラル・ボーン・キラーズ』の脚本をハリウッドへ送り出したことでも注目を集める存在だった。
彼に与えられた使命は、台詞のテンポやリズムを良くしたり、細かな内容を追加するなどの修正作業。その具体的な修正箇所は明らかにされておらず、あくまで「推測」にとどまることをお許しいただきたいのだが、筆者が注目したのは緊張感あふれる状況下でニコラス・ケイジがふと差し込ませる軽妙さにある。
特にビートルズのアナログ盤レコードについて熱い想いを語らせたり、不審物を処理する中で木箱からポルノ雑誌が出てきたり、今日一日の苦労ぶりを恋人に訥々と聞かせる場面の語り口などは「らしいなあ」と感じずにいられない。
『ザ・ロック』予告
そして『パルプ・フィクション』では薬物を過剰摂取したヒロインの蘇生のために心臓に注射針をブッ刺すくだりがあるのだが、本作にも化学兵器の影響から逃れるために注射針を垂直に打つ場面がある。ついでにもう一つ、『トゥルー・ロマンス』のラストにあった、多くの男たちが互いに拳銃を突きつけ合うという緊迫シーンが『ザ・ロック』でも全く同様に盛り込まれているのも興味深い。これらの箇所にタランティーノが何らかの手を加えたことは十分考えうるのではないか。
どうだろう。大人数の脚本家が参加しているとはいえ、決して突貫工事のようではなく、むしろそれぞれが専門性や任務をもち、厨房に立つ料理人のように目の前の料理皿に向けて「なすべきこと」を全力傾注させていったような印象さえ受けるではないか。初稿はもっとシリアスな内容だったとも言われており、『ザ・ロック』がこれほど豪快かつスピーディーなテンポとリズムと、様々な音色を持ったキャラクターによってバラエティに富んだハーモニーを奏でることができたのは少なからず脚本家たちの努力の賜物と言える。彼らの一人でも欠けていたなら、このような傑作アクションは生まれ得なかっただろう。
マイケル・ベイとクエンティン・タランティーノ。演出スタイルの全く異なる同性代の二人だが、こんな形でコラボしていたとは意外な驚きである。だがその二人の融合が、90年代を代表する傑作アクションを生み出したと言っても過言ではないだろう。