『クリムゾン・タイド』にも刻まれるタランティーノ印
ちなみに、この『ザ・ロック』と同時期、タランティーノが同じく「ノークレジット」で参加したのが『クリムゾン・タイド』である。例によって該当箇所は明らかにはされていないが、じっくり観ていくとその特徴は極めて明瞭に浮かび上がってくる。
というのも本作には、同じ潜水艦で運命を共にする乗務員たちが出航前のバスの中で戦争映画の名作『眼下の敵』についてクイズを出し合ったり、アメコミの「シルバーサーファー」をめぐって殴り合いの喧嘩をおっぱじめるシーンまで描かれているのだ。
挙げ句の果てには副艦長役のデンゼルに「『シルバーサーファー』は素晴らしい作品だ!」と語らせ、このコミックを愚弄した乗務員はラスト付近で銀色テープによってぐるぐる巻きにされる。さらにタランティーノのビデオショップ店員時代の同僚の名前をあしらったキャラクターまでもが登場する始末。これはもうファンにはたまらない宝探しだ。このブッ飛んだ味付けぶりが映画に独特のノリをもたらしているのは言うまでもない。
今や21世紀を代表する監督の地位にまで昇りつめたクエンティン・タランティーノが、キャリア初期に手がけたこれらの仕事。彼の文脈で読み解くことによって見えてくる部分も多い。1度目の鑑賞では手に汗握る緊張と興奮に身を浸しながらも、2度目、3度目にはこのような脚本家の仕事ぶりに思いを馳せてその職人技をじっくりと読み込んでみるのも、有意義な楽しみ方と言えるのではないだろうか。
1977年、長崎出身。3歳の頃、父親と『スーパーマンⅡ』を観たのをきっかけに映画の魅力に取り憑かれる。明治大学を卒業後、映画放送専門チャンネル勤務を経て、映画ライターへ転身。現在、映画.com、EYESCREAM、リアルサウンド映画部などで執筆する他、マスコミ用プレスや劇場用プログラムへの寄稿も行っている。
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